大学生 同居 (少しネタ感覚注意)



高望みなんてするつもりもなくて、今が出来すぎってレベルに幸せなわけだ。普通だったら中学からの付き合いで、八年間を越えるなんてなかなかあるものじゃない。下がることを知らない相手への感情は上昇し続けて見事に限界値を突破。いざこざは何回かありつつも、結局未だに付き合い続けて同居するまでに至った。というか持ち運んだ。これで文句の1つでも言ったら、多分明日ぐらいに俺は死ぬ。と、思わないわけではないが。

「はい、残ってますって」

「…うん」

「残ってますって。」

テーブルを挟んだ前方に、両肘をたててこちらを見る倉間がとてつもなく可愛いのは当たり前の事で、今更そんなことを述べるつもりなどない。ただ、自分といる時に見せる笑顔の中で最上級レベルに微笑む相手からは、楽しさなどは微塵も伝わってこなかった。


元々、家庭の関係で料理を作ることは多かったらしい。それが大学に上がって趣味に発展、今となってはそこらのファミレスよりも美味しいと感じるほどに相手の腕前は上がっていた。
毎日な訳ではないが、週に数回一緒に食べる夕飯は、倉間の手料理であることも多い。幸せだ、幸せすぎる。けどまあ、人生そんなに甘くはないんだよ。皿の上に残る緑のヤツが、嘲笑う声さえも聞こえてきた。

「〜、やっぱり嫌だ」

「あー、もう箸置くな!食え!」

緑のヤツ、またの名をピーマンという。宙に浮く手が震え始めたところで限界を感じ箸を置いた。作られた感満載の倉間の笑顔は取っ払われ、箸を持たせられそうになるが聞いてはやらない。

「あんたもういい大人だろ」

「成人してからまだ1年だ。大人のなかではひよっこだ」

「屁理屈こねてんじゃねーよ!」

基本的に何でも食べれる。偏食な訳でもないが、定番、テンプレート、お子様が嫌いな食べ物の栄誉ある一位、のピーマンだけは何故か昔から受け付けられなかった。
なんせ中学からの付き合いだ。そんなこともう知っていると思っていたわけで、数日前、『俺まだピーマン無理なんだよなー』と何気無く口にしたところ、苦手なんですか?と問われて驚いた。その時はそれで話が終わったので、気にすることもなく生活していたのだが、簡単に世の中生きていけない。

「…お前俺がピーマン無理なの知ってるくせに」

「好き嫌いはよくないですよ、お」

「大きくなれないとか言うなよ、自虐か?」

「しね!」

落ち着いて考えれば、多分後から無性に恥ずかしくなるような会話をしている自覚はあったがとりあえず止まらない。子供のじみた言い争いは喧嘩レベルにも達しはしない。

「というか何でピーマン出してくんだよ!」

「あんたがプリン食わなきゃこんなことにはならなかったかもしれませんね!」

「っ!、…は?」

ヒートがかかってたたみかけた台詞の回答は同じテンションで返された。が、突然表れた不可解なキーワード。プリンってなんだ。
止まるこちらと、止まらない相手。

「ありえねーだろ!あれリッチバージョンですからね!?普通より50円高いんですからね!?」

熱弁をBGMに記憶を必死に遡る。そして気づいた、二日前の自分の行動。冷蔵庫にあった見知らぬプリン。確かに、食した。うまかった。

「え、何」

「なんですか!」

言い訳とか許しませんからね!牙を向く相手に問うた。

「…お前、だからピーマン入れたわけ?」

仕返しに、的な?伺うように告げる。

「だっ!…、あ、」

瞬間のストップ。考える時間を与えて数秒、口はゆっくりと閉じられて、青ざめた顔は段々と赤くなっていく。
おそらく伝えるつもりは無かったのだろう。プリンを根に持つなどそれこそ子供らしい。倉間的にいえば『あんたもういい大人だろ』だ。

「いや、ち、が…、」

席をたって下がる相手。その辺りでリミットだった。

「お前、可愛いすぎるのもいい加減にしろよ!」

「知るかよ!来んなよ!」

勿論そんなことは無理にきまっていて、すぐさま捕まえて胸に閉じ込める。
暴れる相手を宥めつつ、その温度を堪能した。

「さいあく、さいっあく」

「恥ずかしがんなよ、プリン旨いもんな」

「まじ黙っててください」

気持ちは察するのでそこからは黙った。うー、と奇声をあげているあたり、相当恥ずかしかったらしい。気持ちはわかる。だけど可愛い。

「…あの!」

いきなり顔を上げる倉間。どうやら軽く吹っ切れたらしい。そこら辺りは男らしいな、といつも思う。

「ピーマン食べたら」

続く言葉に気分は急降下。下がるテンションは凄まじい。固まりかけるも相手は続ける。

「…ご褒美、あるんで、」

ちらり、と見られて高鳴った。これは、あれか。漫画でよくあるあれなのか。

「え、何、倉間を食べてもいいんですか」

「あんた本当に残念だよな!!」

送られる視線から本心からの軽蔑だとわかるので、どうやらはずしてしまったらしい。
よくわからずに傾げると、相手の視線はキッチンへ。

「プリン、買ってあるんですけど…」

一緒に食べようかな、とか思って。最後の台詞は小さかったが、胸に届いて広がり続ける。

「…あーもー、食う。食わないわけない。」

ピーマンがどうした、食えないはずがない。うえに、倉間の手料理の時点でハードルは低い。
相手を解放し、テーブルに戻ろうとしたところで背中の辺りを掴まれた。

「別に、いいですよ」

「は?」

「ご褒美、追加で」

懲りずに言おうか。倉間が可愛い。





∴リピート、リピート