オレンジの誘惑 | ナノ











スマホの日付を見てふと思った。そしてそのまま口にした。

「ねぇ、クロ」

「ん?」

珍しく今回は相手の部屋。というのも今日は親が二人ともいなかったから。ご飯をご馳走してもらい、そのまま上がり込んで遊んでいた。勿論一人で、というかスマホで。

「お菓子くれる?それとも悪戯されたい?」

「唐突すぎて着いていけないのは悪くないな?」

放置プレイにも慣れている相手は基本的には大人しい。こちらが吹っ掛ければ返答があるし、気分じゃないときには声もかけてこない。だけど、側にはいてくれる。心地が悪いはずがない。

「今日、ハロウィン」

それは今日も例外ではなく、ゲームに集中していたこちらを構うことはしてこなかった。しかし自分がゲームに飽きてしまえば、興味の対象は相手へと移る。
日付の画面をつきだした。

「クロお菓子持ってるでしょ?」

自分を含め部員に渡す何かしらの食べ物をいつも相手は持っている。ならば用意などしなくとも、いつでも悪戯の回避は可能なはずだ。

「俺から悪戯されたいでしょ」

正直楽しさが勝っていた。自分にぞっこんの相手が前者を選ぶはずもなく、首に腕を回して唇を塞ごうとした。が、思いもよらない事態に陥る。

「ストップ、研磨」

近づいてきた相手の手のひらに遮られたのはこちらの悪戯、もとい口付け。予想外なのは言うまでもなく、疑問を飛ばすと笑って鞄を探り出した。そしてこちらを振り返る。

「はい、あーん」

「え、ちょっ」

唇に付けられた赤い玉は、そのままコロンと口内へ入ってきた。途端に広がる作られたイチゴの甘さ。

「お菓子あげたんだから悪戯させねーよ」

微笑む相手から伺えるのは、所詮年上の余裕というやつか。
そして体重がかけられる。

「じゃあ、次は」

後ろに追いやられてすぐにぶつかる背中と壁。捕獲者の瞳をした相手が漏らす。

「トリックオアトリート、研磨?」

わざと目線を同じ高さにされて放たれた。ここは相手の部屋なのだ。勿論お菓子などあるはずもなく、それを知った上であちらもいっている。上機嫌なのは構わないが、正直言って面白くない。

「…お菓子ならある」

「え?、んっ」

今度こそ、唇を捕らえた。動揺する相手の口を開けて、そこに移しこむ先程の飴玉。溢れる双方の唾液の甘さに、酔いが廻りそうな感覚。
離しても続く透明な糸が切れないうちに相手に告げた。

「美味しい?」

悪戯めいた視線を送り、クスリと笑っていってやる。ガリ、と飴を噛み砕く音と、少し不機嫌な相手に満足感。一筋縄では自分は攻略させはしない。

「美味しいけど、もっと食いたい」

「いいよ、あげる」

悪戯はこの辺までにしておこう。
次はこちらが食べられる番だ。





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