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一瞬狸寝入りかと疑ったが、微かに漏れている寝息からどうやら本当に寝ているのだと悟った。眠いならベッドに入るなりすればいいのに、床に座ったままベッド寄り掛かっているのは馬鹿なのか。
意識の無い相手の横に腰かけた。

週末に泊まり合うのは恒例。もはや泊まるという感覚さえなくて、どうせ部活があるんだからといった感じで双方ともが考えていると思う。今回は自分の家だった。
相手を先に風呂に入れて、じゃあ次は俺がと出ていってから数十分。上がってみれば、そういうわけだ。

部屋で一人なんて常のことで、別に暇だなんて考えることもないのに、二人のときはやはり違うもので。さてどうしようかと考えて、相手に伸ばした指はどこにも到着することもなく空間で停止した。…起こしたら悪いだろうか。溜め息を一つ、指を引いて相手を見つめる。
騒がしいのが常な相手だからだろうか、自然と感じた思いがある。

「黙ってればさ、ちょっとはかわ…、」

途中まで発した言葉をきって、ピタリと停止した。今自分は何と言おうとしたのだろうか。
得体の知れない焦りに駆られ、膝を抱えて頭を伏せた。

「寒すぎてしょ、うわ、」

無意識とはいえ、寧ろ無意識だからこそ、心の底から込み上げてくるのは羞恥心。自分の口から、まさか。聞かれなかっただけまだマシじゃないか、なんて気休めは通用しそうになかった。

「…ツッキー?」

「っ!」

横からした聞き慣れた声に思わず顔を上げると、覗きこむ相手が間近。後ろに下がろうとするも、背中にぶつかるベッドに阻まれる。

「お、きた、んだ」

「うん、ごめん。寝ちゃってた」

頬をかく仕草を見せながら笑う相手は通常運転。比べてこちらは羞恥に浸る。そして段々と込み上げた結果、再び集まる熱は厄介で。
平静を装っているつもりでも、こういった時だけ相手が鋭いのはお決まりだろう。

「顔赤くない?大丈夫?」

「なんでもないから」

なんでもないのに顔が赤くなる方がおかしいとは思うが理由など言えるはずもなく、矛盾満載での返答に、クスクスと笑う相手を見つめる。

「…なに。」

「いや、だって」

問うたのが間違いか。一様聞くと少しの応答と加算される笑い声。若干癪に触ったところで、相手が再び口を開いた。

「襲ってくれようとしたのかなって」

「は」

「別によかったのに」

意味が解らない台詞を噛み砕いて頭のなかで生理する。つまりはあれか、自分の顔が赤いのは、寝込みを襲おうとした時に起きたからだと勘違いされたということか。
理解した瞬間身体が動いた。

「ちがっ!そうじゃなくて!」

「う、わ」

相手の肩を掴んで叫ぶ。そんな誤解、されてなるものか。

「山口が可愛いなって思ったから!恥ずかしくなっただけで!」

とにかく必死に言ったわけだ。心から。誤解は解けたか?と相手を見ると、明らかな動揺。そしてぽつりと呟かれた言葉。

「あ、りが、とう?」

「…、あ、」

愚かなことにそこで気づいた。叫んだ言葉とその意味に。むしろ勘違いされたままの方がマシだった様にさえ思えて来る内容に。
掴んだ肩を離せないまま、二人で固まるのは何の罰ゲームだろうか。

「あー、あーー」

目線を反らして言い訳を考えるも、こんな状態で機能する脳ではなく、固まったままの相手にこちらまでもが居たたまれなくなる。
ちらりと見ると、重なった視線。その辺りで吹っ切れた。

「…襲ってもいいんでしょ?」

「違うんじゃないの?」

首に腕を回してくるくせに、挑発してくるとは何事だろうか。

「違わない」

その唇にかぶりついた。




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