上陸作戦始動 | ナノ











中途半端、まさにそんな感じ。手のひらを受け止めるベッドの質感。その間にはぎこちなく自分を見上げる先輩。押した、倒した、そこで気づく。自分のやった行動ではあるが、今までにない後悔に襲われた。


何度か二人で行為を重ねて、雰囲気やタイミングを察することができるようになった。仕掛けるのは当たり前だが常に相手。全力で強張るこちらを上手く誘導し、受け入れることができる雰囲気を作られる。なんせ、こちらは素直には無縁な性格だ。おそらくそれだけでも労力だろう。もしかしたら不安を与えているかもしれない。だから、事後ぽつりと呟かれた、嫌なら言えよ?という言葉がずっと、頭にこびりついていた。

嫌なはずがない。愛してもらっていることが、恐いぐらいに伝わってきて。こちらが腕を廻すだけで、幸せそうに微笑んでくれる。勘違いをされたくない。そんな思いが募った結果、転校してから会うことが難しくなった相手が一時的に帰宅する今日、思いきりやらかした。


数週間ぶりに会った相手は、会う度にどこか大人になっていっているような。置いていかれてしまいそうな、そんな気持ちにさせられる。空虚は相手とじゃれあううちにすぐに埋まってしまうのだが、一瞬訪れた沈黙に、それまで考えていた想いが浮上してしまった。

「み、なみさわ、さん」

「、何?」

ベッドに二人で腰かけて、他愛もない話をしていた途中。急にこちらが持ち出した異なる雰囲気に、相手が少しだけ反応する。視線をあちらに合わせないまま、口をついてしまった言葉。

「したい、です」

「…は、」

一度言ってみて質量は増した。止められない、そう感じて相手の服の袖を掴む。一度目は勢いで、でも二度目は心から。

「やりたい、欲しい」

顔を上げて言った台詞は、先程よりも力が籠った。身体がどんどん熱くなる。それは見上げた相手も同じらしい。だけど、視線は外された。

「、どうした?何かあった?」

さりげなく掴んだ指を外されて、こちらを見ないまま笑って誤魔化すような返答。すっと血の気が引いく。

「…そんなに、変ですか」

勝手に身体が動くとは、まさにこう言うことを指すのだろう。突発的に動いた身体は隣にいた相手を押し倒した。驚く相手を見ることもなく、収まらない何かが自分を動かす。

「だって、俺、あんたみたいに出来ないし、素直じゃないし可愛げないし、」

「くらっ」

「だけど!でもさあ!…っ」

表現の仕方が見つからず、一旦止まった自分の勢い。気持ちだけが先走る。しかし収まった訳ではない。

「…俺からとか、駄目ですか」

ぽつりと呟いた言葉で段々と落ち着いてきた。そこで分かってくる状況がある。冒頭に、戻るというわけだ。気付けば相手を押し倒していた。何がしたかったとか、自分からやろうとしたとか、そういうつもりは全くなくて、ぎこちない表情を見せる相手はあたりまえで。というか、断られたわけだ。自分から誘って誤魔化された。すなわち同意を貰えなかった。なのに逆上して、こうなって。理解した途端、恥ずかしさが込み上げる。

「あ、ちが、」

逃げたい、消えたい、帰りたい、そんな気持ちに駆られて、あれほどあった勢いはなかったかのように消え去った。

「ごめ、んなさ、い」

火が出るほど、そんな表記だれが初めに使ったのだろうか。相手の様子を見れるはずもなく、顔を目一杯俯かせることに呈する。だから気が付かなかった。相手の腕が伸ばされていた事に。

「駄目」

「うわっ!」

後頭部に当てられた手のひらに力が加えられ、そのまま胸に寄せられた。何が起きたのか理解が出来ずに、困惑するなかで言われる言葉。

「誘ったら駄目」

崩された体制は相手によって整えられ、片方だけだった伸ばされた腕は、両方に変わって力も強くなる。完全に抱き締められて、気付いたのは相手の鼓動の速さ。

「南沢さ」

「絶対、無理だから」

怯えたような弱々しい声は、ストレートに胸を通過する。

「ぐちゃぐちゃにしたくなる、我慢とか、出来る自信全然ない。辛くなんのは倉間なのに、」

ごめん、俺が怖いだけ。頭に顔を埋めながら、そう言うこの人を俺は知らない。いつもの余裕など感じられない程に、小さく見えた一つ上の先輩。驚きと、もう一つ思うこと。

「好きなようにしてくださいよ」

可愛いなあ、と心から。この人が、いつも自分に言ってくる、それもこんな感じなのかなと。

「だって、だから誘ったんですもん」

初めに発した言葉で顔を上げた相手。二度目の言葉と同時に、頭に手を伸ばしてゆっくりと撫でる。

「ぐちゃぐちゃに、されたいから」

いつもされる誘導を、自分がしていることに驚きが生まれる。本当は少しだけ恥ずかしい、だけど本心で思ったこと。渋る相手の唇を塞ぐ。

「ぐちゃぐちゃにしてください」

離して告げて、腕を回した。

「…我慢、しようと思ったのに」

「出来そう?」

「無理そう」

身体が反転、天井が見える。

「それはよかった」

我慢できないほど、自分を好きでいてくれる。




∴上陸作戦始動






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