周辺を探ると手に触れたプラスチックの感覚。意識は浮上するも、重い瞼を開くことはなかなか困難だ。開いたところで待ち構えているのは、この通信機器から発せられるなんとも受け入れがたい光の洗礼なのだから。

「んんー…、」

学生の何人がこのジレンマと戦うのだろうか。平日の朝、というなんとも受け入れ難い時間帯。学校に行くことさえわりと億劫なのに朝からこんな仕打ちはない。
あぁ、休んでしまおうか、いや待て昨日も同じことを。そんなことを考えながら、この時ばかりは小学生から成長していないらしいと思い知る。

「…何時だろ」

やっとのことで瞼をあけた。案の定、機器から発せられる眩しすぎる白い光に一瞬怯んでもう一度見直す。時刻はアラーム設定よりも数十分間早かった。
少しの驚きと、安堵感。自分がこんな時間に起きるとは、気持ち的には今日はお赤飯にしたらいいんじゃないかというぐらいの快挙だ。いつもならアラームでさえ無視し続け、幼馴染の彼が来るまで起きることはないのに。
ベッドの中で寝返りを一つ。アラーム機能をオフにして、もう一度瞼を閉じた。そうだ、どうせクロが来てくれる。我ながら呆れた発想だが、別の安堵感に包まれて学生の憧れ二度寝に呈することに決め込んだ。



頭に触れる体温と撫でられる感覚。ゆっくりと頭上に手を持っていくと、思った通り腕を掴まれた。

「研磨、朝」

「、んー」

微睡の残る思考でめいっぱい考える。あぁ、もう朝か。あれ、でも確か。
ちら、と布団から顔を出して横に座る相手を見上げる。

「おはよ」

「お、はよ」

自分より大きな手のひらで撫でられる安心感。周辺を探るような動きをすると、自分のスマートフォンが渡された。
画面を見て、アラームが切られていることを確認。思わず笑みがこぼれてしまう。どうやら夢ではなかったらしい。

「ねぇ、クロ」

「ん?」

身体を起こして目を擦る。あぁ、やっぱりまだ眠いかも。上半身を傾けて、相手にゆっくり体重をかける。

「今日、アラーム鳴る前に起きた」

「、いや、寝てたぞ?完全に」

「二度寝」

コツン、と頭を叩かれた。が、全く痛みは感じない。少し忌まわしめそうな表情、それに比例しない優しさがおもしろい。

「自慢げに言うなよ」

「だってさ、」

「ん」

「俺のこと、起こすのすきでしょ」

疑問形でなく確定として聞いた。加えて、朝の楽しみをとっちゃ駄目でしょ?と。
一瞬驚いた素振りを見せる相手。ニッと笑ってから立ち上がり、見下ろすようにこちらを見てくる。

「好きだよ、悪いか?」

「悪くは、ない」

二の腕を掴まれて起きるように誘導されたので、ベッドを降りながら応答する。部屋を出ようとする相手に、追いかけるようにこちらも続いた。

「ちゃんと朝飯食えよ」

「お腹すいてない」

「おばさんがつくってんだから食え」

「…、」

時間ギリギリに来ないのもご飯を食べさせるためなんだろうな、なんて思いながら、伝えていなかったことを思い出して口を開いた。

「俺も、起こされるの好きだよ」

クロにだったら、と続けるのは、相手が喜ぶとわかっているから。

「…んなこと知ってる」

耳に届いた声質は、いつもよりも柔らかかった。





∴三文の徳










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