「お願いしまーす」

「人にお願いする口調じゃねーよ」

さっさと座れ、と相手を急かし、首に掛けられたタオルを奪った。ベッドの上に座る自分と地面に胡座をかく相手であるので、身長差云々已然にこちらが見下ろす側になるのは当然。ではあるが、やはり気分は良い。

どれぐらい前の事だったか、泊まりに来た倉間が風呂から上がった後、乾かすことを怠っているのが耐えられなくなったのは。風邪を引かれては…、という理由も無いわけではなかったが、ぶっちゃけ抱き締めようとした時髪が濡れていると何かと面倒臭かったとかそんな理由だったりするわけだが。
俺が乾かす、と呆れを込めて言ったはずだったが、意外にも『まじっすか!?』と倉間が嬉しそうに身体を預けてきたのは偶然の産物。
後で聞いた話、本人曰く家では乾かすようだが、人の家でドライヤーを借りるのも悪いと思っていたらしい。


濡れた髪の隙間から覗く褐色のうなじに水滴が滴る。タオルでさっと拭ってから、髪の水分を徐々に吸いとっていった。

「なんか、髪触られると眠くなる」

「寝る?」

「いや、寝ませんけど。気持ち良いなってぐらいで」

「ふーん」

水気も大分無くなってきた所でドライヤーの風を当てる。若干大きめの音に合わせて、あー、と声を出す後輩。
温風と共に来るシャンプーの香りは同じなわけで、どこかくすぐったくなるような不思議な感覚。
髪を指に絡めてすぐに離した。

「やっぱ、乾くと量増えるのな」

殆ど乾ききった髪の量は普段と変わらない状態になる。

「あー、量やっぱ多いですかね」

「似合ってんだからいいんじゃねーの」

「答えになってないっすよ、それ」

熱を持ったドライヤーを床に落とし、高い位置から首に腕を回す。
うなじに、唇を当てた。

「…なんですか」

「求愛」

「求められても」

「じゃあ俺があげよっか」

腕を曲げて、顔に手をかける。ふに、と指で口に触れた。

「ねぇ、欲しい?」

顔を少し前に出す。頬と頬がくっつく距離、まだ暖かい髪が触れて少しくすぐったい。

「…もう、沢山貰ってる気がするんですけど」

「満足なわけ」

「まさか」

よっ、と声を出して立ち上がる相手。見下ろされる側になった。

「ぜんっぜん足りてないですよ」

「うお、」

力を抜いてベッドへとダイブして来たので抱き止める形になるわけだが、これが結構痛かったりする。

「お前なー、」

「ねぇ、やっぱり眠いかもです」

文句の1つでも言ってやろうと思ったところで、それを封じるようにすりよって来るのは確信犯か否か。少し微睡んだ表情の後輩に言う。

「…寝る?」

「一緒になら」

強制でない強制、断れないことぐらい知ってんだろうに。

「じゃあ、寝る」

「おやすみの?」

まったく、おねだりが上手なことだ。





∵サンプルコマンド