相手の部屋に二人きり、両親とも仕事で家を留守中らしい。そういった雰囲気に、頬に手を添えられるまではなんとか我満できた。見つめられたところで若干逃げ腰、口が近づいた所で完全にアウト。相手を突き飛ばして距離を広げる。

「無理です無理ですやっぱり無理です!」

回らない頭が台詞を作るはずもなく、まさに思ったままを口にしてしまう。明かに不機嫌になる相手の表情に焦らないはずもないが、無理なものは無理、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。顔に熱がこもる感覚に、余計にいたたまれなくなって視線を落として拳を握る。

「恥ずかしいですごめんなさい」

正直な思いと子供染みた謝罪、情けないにも程がある。
ちらりと顔を上げると、うなじ辺りをかきながら自ら距離を広げる南沢さん。

「…別にいいけど、」

溜め息まじりに言われた言葉はトーンこそ暗くは無かったが、伺えるのは少しの呆れと大部分の拗ねだった。

自分でも、なにやってんだよと本気で思う。目の前のこの人が好きだなんてわかりきったことなのに、キス一つが恥ずかしくてしょうがなかった。決して嫌なわけじゃない、だから尚更もどかしい。自分でさえこんなにももどかしいなら、相手はもっと…、そう考えるといてもたってもいられなくして、相手の指先にそっと触れる。
ピクンと跳ねたのは自分ではない。

「み、なみさわ、さん」

不安から来る行動ではなく、伝えたいからやった行動。自ら広げた距離を縮めて相手の服の袖を摘まむ。

「嫌じゃないんです、」

好きだから、恥ずかしいんです。噛みながらもなんとか告げる。と、同時に上がる体温。それは相手も同じようだった。もしかしたら今、物凄く羞恥心をつつかれる台詞をいってしまったのではないか。

「…あーもー、」

手で顔を隠して数秒後、ちらりとこちらを見てきた瞳はいかにも恨めしそうで。隙間から覗く頬が赤いのが可愛いと感じてしまう。顔が緩みそうだと思った瞬間、腕を引かれて相手の身体へと寄せられた。強く回された腕と、額に落とされる唇。

「お前に弱すぎて自分が嫌になりそう」

一人言のように言われた台詞を聞き漏らすはずもなく、言葉の意味に思わず笑った。
たったこれだけの事で、どうしようもないくらい胸がぎゅっと捕まれる。

「めちゃくちゃ恥ずかしい」

「俺もだ馬鹿」

それでも離れようとは思わない辺り、重症なわけだ。











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