これの続き。
南沢さん雷門にいます。








例えば、自分が今歩くのを止めても時が止まるわけでなく。悔やんだ一日に戻って欲しいと念じた所で、戻るはずもなく。時間に置いていかれないように、ただただ決まったルートを歩くしかない。特に、学生の場合は。

ここ一ヶ月であったテストは全て自己ベストを更新した。勿論それなりに褒められ、それなりに嬉しかった。だけど何かが違う。何かが、なんて言い回しをしなくても、原因なんて一つしかないわけだが。勉強でもしてないと相手の事を考える、だなんて、なんて受験生に優しい症状だろうか。

「…くそ」

三桁の数字が並ぶテスト用紙でさえ、こんなにも憎らしい。ぐしゃり、簡単に依れる紙に、何処かが痛んだ。

手離したのは明らかに自分だった。耐えられなくなったのも、口に出してしまったのも。ある意味人生最大の大勝負、結果は完敗、理由の一つも聞かれないまま淡々と頷かれた。涙など見れるはずもなく。
これだけ明白なのにも関わらず、悔やむことを止めない心身的な何か。どうやら自分は思っていたよりも女々しい野郎であったようだ。まったく、困ったものだ。笑えない。




一ヶ月間、外面的には何もなかった。部活も引退済みとあれば、アクションでも起こさない限り何かが起きるはずなどなく。今日だって同じように過ぎていくはずだった。あくまで、過去形。



「あ、みなみさわさーん」

教室移動の途中、名前を呼ばれて足を止める。振り替えると、手をふる部活の後輩が一人。

「浜野、」

お久しぶりっす、と笑顔で話しかけてくる。あいつの、親友。

「あぁ、久しぶり。」

無意識で見たのは後ろ側。探した所でどうなる、それ以前にいるはずがない。わかっていても、どうしようもない。

「聞いてくださいよー、倉間がさっきぶっ倒れちゃって」

「は、」

「あ、でもただの寝不足らしいですから大丈夫っぽいっすよー」

ただ単に、驚いた。体調管理だけは念入りにしていたはずの後輩だ。何より、その大切さだけはずっと教えてきた。FWが点を取らなければ勝つことはできないと、いつも万全の体調でいることが一番大切だと。

「…保健室にいるんだよな?」

「はい、保健室に」

進行方向を、変える。

「いってらっしゃーい」

やれやれ、と安堵したような浜野の表情など、知る由もなかった。



思えば、何がしたかったのだろうか。行ったところで、何もできない。してはいけない。
だけど、自分が限界だった。顔を見れないだけで、声が聞けないだけで、こんなにも。
乱れた息を整えて、保健室の扉を開けた。

「失礼します」

小声で呟き見渡す室内、返事もないことから養護教諭は不在だと悟る。
一番奥側のベッド。唯一閉じられていたカーテン。
息を殺してゆっくりと近づき、カーテンを開けた。







∵そぐわない転換


続きました