細くて少し癖のついた髪に指を埋めた。くしゃり、と指に絡める行為を数度繰り返して一端止める。ちらり、とこちらへ移された視線から疏通されたのは疑問。
もう一度、と指を埋め直そうとしたところで制止が入った。

「なんですか」

「んー、…愛情表現?」

首を若干傾けながら少々甘ったれた声で発してみると、見開かれる瞳。あ、やっぱこいつ目でかいな。

「引いていいですか」

「いけません」

距離を取ろうとしたそいつの肩をとって壁によせ、片腕を頭上へ。顔をぐいっと近づければ、思いっきり反らされた。

「キス、していいですか?」

「いちいち確認とらないで下さい」

強気な声質に思わず笑みが溢れる。頬に何度かキスを落として、瞼、髪の毛、掴んでいる腕、とだんだんそこから離していく。
相変わらず顔は反らされたまま、目線だけが交わった。

「なに?」

「…なんでもないです」

再び反らされた視線と軽く唇を噛むしぐさ、物足りない、といわんばかりの。
胸が高まる、本当に。

「こっち向いてよ」

お前がしてほしいなら、と鼓膜に響くように耳元で呟く。
びくついた肩から蹴りがくるな、と予想できたので空いている手を脚へと伸ばす。案の定曲げられた脚は動かせないのだから機能はしない。
未だにこちらを向くことのない顔。
不安が、少しだけ募る。募らせる必要など無いのに。黒い点は徐々に心を埋め尽くす、厄介極まりないのだ。そんなこと、もう随分と前からわかっていた。

これ以上は俺がもたないと感じたので腕を掴む手の力を抜こうとしたとき、唇に柔らかい感触。触れる、というよりぶつけられたに近いような。

一瞬思考がストップし、ちらりとみた倉間の表情は、幼い子供がいたずらを成功させたときのそれ。ただし、顔は赤く色づいている。

ああ、もう。こいつは。

「おかえし」

顔を、寄せた。



∵循環器の故障