本日の気温36°。蝉の鳴き声が頭の中を占領する、っていうのは外を歩いていればの話で、エアコンによって温度調節された家のなかにいればなんてことはない。通常は。 「南沢さん、暑いです。」 「、そう。」 正直な感想を述べればそれに対する応答。否、それに反して背中から回された腕には力がこめられて密着する面積はより増えた。 かれこれ数分は経過しただろうか。 相手の家にお邪魔してくだらない世間話や課題などをするのは夏休みの常で、本日も変わらず定位置である机の右側に座ったところを後ろから抱き締められた。または、抱え込まれた、に近いかもしれない。 驚いて相手の顔を見ようとしたが、首もとに埋められてしまいそれも叶わず。音にもならない溜め息を心のなかで1つついて、とりあえず様子をみようと体の力を抜いてから随分と時間は過ぎた。 「南沢さーん、いつまでこうしてるつもりですか」 「いつまでしてていいの」 「は」 「いつまでお前といていいの」 耐えられなくなってきて軽口をたたくノリでいうと、返答は重い口調と低い声。思わず問い返してみると質問は変えられて逆に問われた。 「…暑さに頭でもやられましたか」 「俺は、」 ずっと一緒がいいよ。 直も冗談で返そうとすれば、耳元で爆弾を投下される。じわり、と汗が伝った。 「ずっと一緒にいたい、倉間と。」 力の込められた腕から伝わる僅かな震動は相手の震えだろうか。それとも自分の震えなのか、いや、今はそんなことどうでもいい。 随分と甘えた声で二度も爆弾を投下しやがった奴の頭に手をおいてそっと撫でてみる。 むくっ、と頭は上がり、目線が合ったと思えば、不服そうに、お前はどうなんだ、と目で問いかけてきた。全く馬鹿馬鹿しいにも程がある。 「…あんたが捕まえていてくれるなら」 一度目線を外してからぶっきらぼうに答える。可愛くない、本当に可愛くない。でも、それでもその先を声に出すのは億劫で、変わりに瞼に唇をあてた。 「倉間、すき、本当にすき」 一瞬驚いたように怯んだ相手だったが、幸せそうに笑って触れるだけのキスを何度も繰り返され、その度に呪文のような言葉を言われる。 あてがられた指が器用に前髪を掬い上げ、ちう、っと額を吸われ、また抱き締められる。 俺もです、なんて器用な事は言えないけれど、体重を預けるぐらいなら、出来ないわけじゃないんだ。 早く冬が来ればいい。 気温が低い事を理由にして、貴方に腕を回せるように。そんなことを思いながら身体を委ねた。 ∵ナイーブな調味料 |