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※大学生






とん、という肩への重みでふと目が覚めた。というか、瞼が開いた。

「ん…、」

ぼやける視界はいかにも不透明で、重ねてかかる身体のだるさは鈍い痛みに。それでもうなじに片手を掛けながらゆっくりと机から頭を上げると、目の前には軽く潰された缶が数個と液体が残るグラスが2つ。そして隣には、傾いたまま寄りかかってくる水色の相手。

「…く、らま」

覚醒しない頭でぽつりと出た言葉は殆ど無意識。今にも閉じそうな視界の中、対して気怠いはずの掌は吸い寄せられるように髪の毛へ。

「ん、ぅ」

くしゃり、と指をそこに絡めると、小さく身動いだ相手から漏れたのは僅かな声。しかし自分の聴覚は、どうやら思った以上に反応を示したようで。
だんだんと働き始める思考と共に、クリアになっていく視界は良好。つれて、ゆっくりと繰り返す頭を撫でる手の動き。
しん、と続く静寂の中で、ただゆるゆると緩み始める口元は自分にとって不可抗力でしかなかった。


なんだかんだで2人で年を越すのは今年が初めてのことではない。正月ぐらい家に帰れと怒られそうだが、こちらは帰ったところで仕事が忙しそうではあるし、普段からちょくちょく顔を見せている倉間に関しては改めて帰るなんて選択はそれ程なかったらしい。何よりお互いバイトがある。
その流れは今年も健在で、気付けば早くも大晦日。楽しそうに蕎麦を作りはじめる相手の様子は明らかにデシャヴで、手伝いに向かえば去年のように邪魔だから座ってろと一言一刀されてしまう気しかしない。思わず零れた笑い声も、この時期らしいテレビの特番がきっと掻き消してくれただろう。


そんなこんなでご飯は食べた。加えて倉間が解禁となったアルコールも少々、談笑を交えたのも記憶にある。前方に掛けられた時計が示す時間はAMへ変わって早数時間。しかし、明らかに記憶から欠けている時間がある。

「くらま、」

寄り掛かる体温の方を少し向き、最低限の音量で呼びかけた。もう少しこのままでもなんて思った気持ちの表れか、思った以上に出た声は小さい。しかし微抵抗は所詮微抵抗。ぴくりと反応を示した身体に逆に少し驚きつつも、埋めた指を髪に絡める。

「倉間」

「んんん…」

もう一度、と少しだけ上がった音量に身動いだ動きは、こちらに擦り寄る相手を思わせるもので。一瞬で湧き上がる何かを堪えたと同時、片側への負荷が無くなり伏せられていた顔が上げられた。

「…み、なみさわ、さん」

見える相手の横顔はまだ完全に起き切ったものではなく、普段大きな瞳にも薄い涙が溜まっているような。
んん、っと睡魔に抵抗するようにこちらを向いた顔は幼く、呟かれた名前に重なった残像はきっと中学の頃のもの。

「…ね、むい」

「あ、ちょ、」

思わずほんの数秒固まってしまったのは自分で、そんなこと気にも留めず身を預けてきたのは相手。別の理由で煩い鼓動には目を背け、なんとか胸に抱きとめた。

「ふ、は」

「こら、笑うな」

未だに胸元でぐずりながらも、確かに聞こえた笑い声は明らかに自分に対するもの。はっきり言えばそんな仕草だって致命傷なほど全部が可愛い。可愛いのだが、ほんの少し拗ねる自分がいないというわけでもない。

「んーー」

「あー、くそ、」

それでも誤魔化すように頭をすり寄せられれば、こちらが敵うはずもなく。故意でやられているのであればそれこそ完敗、早々に諦め回した腕に力を込めれば、相手もこちらのうなじへ腕を回す。

「年、明けたの気付いてた?」

「知らないです、南沢さんは?」

後頭部をゆっくり撫でながら、問いたかった質問をかける。大分目が覚めたのか、同じく問われた質問に俺もと答えれば、お互いがクスクスと肩を震わせた。

「新年早々、やらかすとか」

「いいですよ」

だんだんと理解してくるとなんとも間抜けな話な気がして、わりとツボりそうになったところで相手が小さく呟いた。

「一緒だったら、別にいいです」

やらかしたって、と続けられた言葉に思わず停止。回された力は僅かに強くなる。

「なんか素直」

「寝言ですよ、寝言」

「起きてる起きてる」

ぶは、と笑いながら返すと同じく笑いながら腕を解いていく相手。誤魔化しの中に少し色付く頬が見えた。

「来年、も」

「やだ」

こつん、とでこをぶつけて言おうとすると、重ねられたのは小さな音量。

「もっと先も、がいい」

目を逸らされたまま言われた言葉は、何より望む相手の我儘。

「それも寝言?」

「ちゃんと起きて、」

重ねたのは、言葉ではなく。





∵貴方が屈んでくれるので














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