朝 | ナノ









※大学生





返信がない時点でわりと察知は出来ていた。時間は早朝とも正午とも言い難い、が来て失礼にあたる時間とも言えないだろう。明日来れるかと聞いてきたのも相手。時間指定をしたのも相手。しかし、どうやら準備は出来なかったようで。
インターフォンを目の前に、それでもまあ、とワンプッシュ。鳴り響く軽快な音が消えてからはそれらしい足音は聞こえてこない。はぁ、と一息、ぎこちなくポケットを探った後、鍵穴へとそれを差しこんだ。


学部も学年も、ましてや大学さえも違うのだ。近距離といえども予定が合わなければとことん会えない。住まいも遠からず近からずの距離。それに相手のバイトが重なった結果、結局今週は週末まで一度も会うことはなかった気がする。それは仕方がない事だと思うし、忙しさで言えば遥かにあちらが上なのだ。寧ろ中学のあの頃の方が酷いわけで…、なんて、つのる理由を言い聞かせていた時点で、わりと自分が滅入っていたのだと実感させられた。






少し重たい扉を開けて、お邪魔しますと小声で一言。大分見慣れたその家は、駅への距離を代償に家賃以上の広さがあると思う。そのまま真っ直ぐ数歩進んで、目の前の取っ手をゆっくり回した。

「朝、ですよ」

「…んー」

入り口から見て左側。頭の中では少し膨らんだベッドと体面する予定だったのだが、どうやら外してしまったらしい。上半身は起こしてはいるものの、隣の壁に完全にもたれ掛かっている先輩は誰が見てもまず寝起きとわかるだろう。眠たい目を擦る、という行為さえ見えないものの、気だるさが伺える。

「は、よ」

原因は恐らく先程のインターフォン。掠れた声で発せられたのは挨拶なんだとは思うが、声量はごく僅かだ。

「、おはようございます」

浮上する少しの罪悪感に戸惑いそうになる。と同時に、腕を伸ばして示されたのは手招き。荷物を置いてベッドへ向かえば、あからさまに相手の表情が緩んでいく。

「らま、くらま、」

繰り返された固有名詞とその表情に、戸惑いの要因が一転するのだからもたないのだ。隠すことなく見せられる嬉しさだとかそんなのが計算じゃないのだとすれば、それこそ敵いようがないと思う。

「…はぁ、」

思わず漏れた溜め息も仕方ないだろう。広げられた箇所に身を預け、ぼふん、と効果音でもそうな具合に相手の胸に寄りかかる。と、即座に回された腕に捕まった。

「ほら、起きて」

「んーー」

身体によくないですよ、と必然的に密接する距離感でいった台詞に母親かとセルフで突っ込み。自由な腕を相手の頬まで伸ばして触れた時、加えられる力が強まったのを感じる。

「っちょ、」

と、同じ時、身体が傾き一瞬感じた弾む感覚。想定内の出来事とはいえ、実際起こると流石に驚いた。

「…ねむい」

「じゃねーよ」

衝撃の為にうつ伏せていた顔を上げると、下敷きになる相手が呟く。ばしり、と軽く頭を叩けば、薄く目を開けた相手が嬉しそうに笑って腕を回し直すのだから、全くをもって本当に解せない。

「、…あー、もー」

まだ何も言ってないだろ、とわりと本気でどつきたくなる。

「起きたらご飯ですからね!」

「ふ、は」

吹き出した相手に、あやすように頭を撫でられた。



∵モーニングコール




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