「いやー暇だね」
「一応仕事中なんだけど?」
「仕事じゃない時なんかないだろ、特にお前はさ」
「自分で望んだ事だ」
「まぁまぁ、気楽に行こうぜ」
「…何か飲むか」


頼むから缶コーヒーだけは勘弁してくれ、と渋い顔をすると慶次は疲れた様に笑った。
こうした表情を見る度に佐助は思う。勿体無いなぁ、と。この男は本来このような仕事に向いていない。けれど今は現場の責任者にまでなっている。まるで自分を追い込むかのように、贖罪であるかのように。
受け取ったお茶は、まだ温かかった。


「なぁ、こういう展開想像してたか?」


まさかなぁ、と溜息しながら首を回す。それを横目で見た慶次は再びフロントガラスに視線を戻した。流れる雨と暗闇が視界を完全に遮断している。


「あいつが無意識のうちに欲求しているものは、現実で自分が得られないものだ。人間の理想なんだよ」
「ふーん…あの小難しい研究も?」
「あれは理想の人間だ」
「成る程な。けど、そんなもんは知らなくても生きていける」
「知りたいと思うことは罪じゃないさ。ただ…」
「ただ?」


そこで急に口を閉ざした慶次に、佐助はそれ以上の追求を放棄した。
嫌いだった。迷いも弱さも。けれど、それを隠し恥じる必要もないと思っている。
いずれ自分にはないそれらを佐助は嫌悪し、同時に羨望もしていた。


「なんだよ、そんなに寂しいのか。なんなら二人で逃避行しろ、手伝うぜ?」
「お前はよくそうやって茶化すが、断じて違うからな」
「照れんなって」
「馬鹿言ってないでさっさと行けよ」


追い出されるように車を降りると途端に水溜まりで靴を濡らしたが、気にせずに傘を広げ、背を向けて歩き出す。


「…解ってるさ。ただ、守りたいんだろ?サトラレであるあいつを、そしてお前自身を」


その足音と独り言は、雨の音に掻き消された。















「元就サン、寝た?」

(…寝てる。やっぱ酒弱いんだ…つーか、こんな事ってあるのか)

(初めてで、でも…気を許せるっつーか…嬉しいんだな、こういうの)

(俺が死んでも、誰に何にも影響ないんだと思ってた。一人で死んで、金で雇った人間に後処理してもらうもんだと、ずっと…)

(…綺麗だ)

(髪も、手も…)

(これで年上なんだよなぁ…)

(この人みたいなアンドロイドとか、作れないだろうな)

「…って、何考えてんだ俺」

(結局、研究ばっかやってきたせい…だけじゃねーけど、人間関係が希薄なんだよな)

(初めからあからさまに壁作られちゃ、無理に踏み込む気になれーし…でも、だから…)

「初めて、か」

(他の人とは違う気がするのは…なんでそう思うんだ)

(あぁ…そうだ…)

(この人は、あの気まずそうな目で俺のこと、見ねぇんだ。怯えたような、哀れみのような目で)

(真っ直ぐ俺の目を見る人だから、か)

(たまに見透かされたように感じんのも、そのせいか)

「初めて会ったよ、こんな人」





ぼんやりとした意識が浮いたり沈んだりを繰り返しながら、元就は眠りの中にいた。
何か音のようなものが聞こえているような気がしたけれど、そんな事はどうでも良かった。
全身が海の中で揺うような感覚に身を任せる。
脳や眼球が引っ張られている。
深く深くへと。
酷く心地良かった。





(好きだなぁ)










#11 ひとりごと

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