お前はたまにすごく寂しそうな顔をする、なんてドイツが突然言うもんだからおれはびっくりしちゃって、そんなことないよーって笑ってみたんだけど、そうしたらドイツの眉間にますます皺が寄って、おれはもう黙るしかなくなったわけで。だから逃げるように寝たフリを決め込んで目を閉じてみたけれど、逆にそんな思考からは逃げられなくなってしまったみたいで、失敗したなーなんて思った。
ドイツの言う通り、正直に言うと本当は胸が苦しくなる時があって、それは例えば遠くからドイツをぼんやりと見ている時だったり、朝目覚めた時に隣で寝ていたはずのドイツがいなくなっていた時だったりする。だから、あぁやっぱりどこか似ているからなのかなぁなんてとっくに分かっていたことを意味もなく、さも今気付いたみたいに自分の中で装ってみたりもした。思い出すのは楽しかったことばかりで、それはとっても嬉しいことなんだけど、だけどどういうわけか胸はぎゅーっと締め付けられて苦しくなる。その上困ったことに、おれはそれが嫌いになれない。あれからどれだけ長い年月がながれて、どれだけ成長しても、それは変わらない。あの頃のままの君の姿が今も、おれの中にいる。


「何を考えている」


寝たフリはやっぱり通用しなかったみたいで、そんな低い声がかけられてゆっくり目を開けると、いつの間にかドイツはさっきまで読んでいた分厚い本を閉じて、眼鏡も外していて、怪訝そうな目でこっちを見ていた。それでおれはすっかり観念して、ぼーっとした頭とだるい体を起こしてから広いソファーの端にいるドイツに寄り添うように座った。こうやって座っていても明らかな体格差は同じ男としてちょっぴり悔しいけれど、同時におかしくもある。そんな逞しい肩に頭を預けて膝元の手に触れてみた。それはやっぱりおれなんかより全然大きくて無骨で、だけど温かくて…あぁ、なんだか今、とっても泣きそうだ。


「気になる…?」
「…いや、すまん…無理に言わなくていい」


少し焦ったような、困ったようなドイツの声に、あぁやっぱりおれはずるいなぁって、そうやって自覚するには十分だった。情けなくて堪らなくなって、重ねた手に自分のそれを絡めた。そんなおれに何も言わず、ドイツは手を握り返してくれる。そんな優しさにおれはまだ甘えてる。すっごく、ずるいやつだ。


「…違う、ごめんね」
「イタリア…?」
「ドイツは優しいね」
「……」
「大好きだよ」
「だっ…!?」


ドイツの匂いが好きだ。
強くてムキムキで真面目で頑張り屋なところが好きだ。
いつもおれのことを心配して、世話焼きなところが好きだ。
怒ると怖いけど、本当はとっても優しいところが好きだ。
たまに、本当にたまに見せる笑顔が好きだ。
だからおれは、こんなにも泣きそうなんだ。


「大好き…何回言っても足りないくらい、大好きだよ。ドイツはおれのこと…すき?」
「……」
「きらい…?」
「……好きだ」


抱き締められた腕の中はちょっと苦しかったけど、とっても嬉しかった。好きって言われるのはやっぱり、どうしたって嬉しい。なかなか素直に言ってくれないドイツから言われると、嬉しくって幸せで、泣けてくるくらい。おれの大好きなドイツは強くて優しくて不器用で…本当に君に似ているね。だけどドイツはドイツだ。そして、君は君。


「おれ、幸せだよ」


おれの中のすごく大切な君へ。
一つだけ、お願いがあります。
どうかずっと、そこにいて下さい。
ずっと笑っていて下さい。
苦しくっても、おれはそれを望みます。
おれはこれからも、この広い世界の一部として生きていきます。
きっと色んなことがあると思います。
嬉しいことも悲しいこともいっぱいあると思います。
その度に笑ったり泣いたり、とっても忙しそうです。
だけど心配いりません。
おれの周りにはたくさんの仲間がいます。
みんな優しくしてくれます。
おれのこと、好きって言ってくれます。
だから安心して下さい。
おれのことを好きだと言ってくれたのも、それからキスをしてくれたのも、君が初めてでした。
おれも君のことが大好きでした。
そしてこれからだってずっと変わらずに大好きです。
君と出会えて嬉しかった。
こんなおれのこと、好きって言ってくれてありがとう。
こんな気持ち、教えてくれてありがとう。
おれの中の大切な君へ。
ありがとう、大好きだよ。





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