サンダルの裏が溶けてアスファルトに貼り付くのではないかと心配になるような気温だった。こんな日に死体の発見などしたくはなかったが、講義に集中出来ないという理由で暑いと言うより痛い日射しの中を自宅ではないアパートへと政宗は向かっていた。大学から十分もかからない距離とは言え、この暑さでは苦痛以外の何物でもない。鳴らない携帯をもう一度確認する。既に午後を大幅にまわっていた。
学生の一人暮らしを当て込んだアパートの一室。表札もない部屋のドアノブを掴むと、それは抵抗なく開いた。薄暗い室内に目を凝らすと、更に無防備な事に男はベッド上で背中を晒して寝ていた。あろうことか、全裸で。


「いつまで寝てんだコラァ」
「んー…」


ずかずかと室内に上がり、ベッドから落ちかけていた足を蹴るとようやく死体もどきは唸り声と共に身じろぎをした。脱力感と徒労感がない交ぜになり、政宗は舌打ちをして窓に視線を逃がした。カーテンは引いているものの、当然のように全開だった。視界の端で明るい茶色の頭がもぞもぞと動く。


「あれ、マー君だ…夢?」
「良かったな、現実だ。つーか早く服着ろ。何で裸なんだよテメーは」
「えーっと、昨日暑かったから、かな?たぶん」
「たぶんって何だ、たぶんって」


ベッドの脇にある扇風機がガコッと音を鳴らしながら首を振り続けている。ようやく身体を起こしたらしい佐助は欠伸をしながら「で、結局何しに来たの?」と抜かした。


「随分な言い種だな…講義にも電話にも出やしねぇし、死んでんじゃねぇかと思って見に来てやったってのによ」
「あぁ、確かに死にかけてたかも…でもそっかぁ、優しいじゃんマー君」
「その呼び方止めろ」


あはは、と笑いながらようやくベッドの下に落ちていた下着をのろのろと手にしたと思った途端、何故かその動きがピタリと止まった。不意に目が合う。そして悪戯を思い付いたかのような得意顔になった佐助を、政宗は無言で見下ろした。


「なぁ、せっかくだしヤっとく?」
「アホかテメェ」
「えーちょう据え膳なのに」
「ちょうとか言うなキモイ」
「じゃあ気持ち良くしたげるよ」


ジーンズを穿いた脚に、佐助のそれが絡む。それを一瞥してから、政宗は傍らにある扇風機のスイッチを足の指で適当に押した。そうして送風が強くなったのを確認する間もなく、目の前の身体に乗り上げる。ベッドがギシリと軋んだ。佐助の満足そうな顔に、軽い目眩がした。


「この変態野郎」
「何それちょう興奮する」


その減らず口を封じてから、政宗は自分の身体が熱くなっていた事にようやく気付いた。
茹だるように暑い午後だった。
風を受ける度、膨らんだカーテンの裾から夏の光が薄暗い部屋に入り込んだ。





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