カキーンという気持ちの良い金属バッドの音が蝉の声に重なった。


「あ、いった」


白いボールは綺麗な弧を描いて外野ネットを越えていき、わあっと歓声が上がった。ピッチャーはマウンドで膝に手をついて項垂れ、キャッチャーは茫然と立ち尽くす。サヨナラホームランを打ったヒーローは腕を挙げながらホームベースに戻り、待ち受けていた仲間に手荒い歓迎をされた。劇的な試合が終わったグラウンドから視線を上げると、真っ青な空に高い太陽と入道雲が圧倒的な夏を演出していた。生温い風が白とは言い難いカーテンを揺らしてはいるが、それにしてもいい加減な暑さだった。窓の外から室内に目を転じて時計を見れば、ちょうど二時をまわった所だった。窓枠に寄りかかりながら、目の前に座って黙々と仕事をこなしている元就の後ろ姿に「まだ終わんねぇの」と声をかけてみたが、黙殺された。見れば解るだろう、ということらしい。しかし暇だ、と思う。元親はかれこれ二時間近く暇を持て余していた。元々は元就の役員仕事に付き合いながら課題を見て貰おうという目論みだったが、元親は暑さを理由にそれを早々に投げ出したのだ。途中、涼を探し求めて校舎を歩き回ってもみたが、結局は元就がいる図書室に戻って来てしまった。夏休み中の校内は一部の部活生しか登校していないせいで閑散としており、当然のように校舎の奥まった場所にある図書室は二人だけの世界だった。その際に買ってきた紙パックのジュースも、机の上で汗をかいている。元就は眉間に皺を寄せたまま、ペンを動かし続けていた。うっすらと汗をかいているのか、制服の白いシャツが背中に張り付いている。半袖のシャツから伸びる細くて白い腕が陶器のようで、触ったらひんやりとしていて気持ち良さそうだな、と思った。


「なあ、こう暑いとヤりたくなんねえ?」
「ついに頭が沸いたか。死ね」


此方に一瞥もくれず、にべもない物言いだったけれど、それは何時もの事なので元親にダメージはなかった。それよりも久しぶりの会話に、簡単に気分が高まった。元親は自分がこの暑さに相当参っているのだと自覚した。


「別にヤらせろっつってねーだろ」
「その下品な言葉を我に聞かせただけで十分だ。死ね」
「んだよ…禁欲でもしてんの?心身の健康に悪いぜ」
「生憎、貴様のような動物脳ではないから問題ない」


話をしながらも、元就の手は休まない。その動きを目で追っていると、頭がぼうっとしてくる。日差しが直接当たる窓から離れて元就の隣に腰掛けてみると、パイプ椅子の温度が気持ち良かった。けれどこれもすぐに不快なものになることは学習済みだった。そのまま机に突っ伏して同じように一瞬の快感を味わいながら腕に頭を乗せ、今度は下から元就を見上げた。気付かないふりをして、ペンを走らせる元就の後ろの開け放たれた窓から夏のきらきらとした光が入り込んで、綺麗だった。まるでビスクドールのように作り物めいている。風がふわりとカーテンを膨らませたと同時に、元就のその細く滑らかな首筋に、汗が一筋落ちた。それでもう、駄目だった。


「なぁ…やっぱ暑さのせいじゃなくてさ、」


朦朧とする頭で、言葉を構成する。もはや偽りや冗談など、考える余裕さえなかった。


「単純にお前を抱きてぇ」


ついに元就の動きが止まり、驚きでも困惑でもない不思議な表情をした顔が此方を向く。数秒間互いに見つめ合った後、不意に元就が勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「ついに本音が出たな」
「なんだ、待ってたのか?」


元就はフンと笑っただけで、伸ばした手は拒まれなかった。絡まった舌が、熱い。汗を浮かべた肌は吸い寄せられるように密着して、すぐに快楽へと繋がっていくだろう。
グラウンドで響いた笑い声が、どこか遠くに聞こえた。





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