「Hey,何やってんだよ元親!」
「いやだ何あれ恥ずかしい知らない振りしよ」
「うむ、それがよい」
「うおお元親殿おおお!!」
「チカちゃーん何やってんのー?」



政宗、佐助、元就、幸村、慶次が口々に話しかける元親は現在、体育館のステージ上でマイクを片手に仁王立ちしている。
今日は文化祭の最終日ということで全校生徒がこの体育館に集まり、ステージによる出し物が続いていた。そしてそれも大トリ、政宗たちはどこかのクラスが合唱なんかをして終わるもんだろうと思っていたところ、何故か元親ひとりでステージに上がったのだ。元親が何かをする事など仲間内の誰も何も知らなかったので、ある者は冷やかし、ある者は知らない振りをし、ある者は熱狂した。



「おう!今から俺の出し物なんだよ!」



緊張するー!と、到底緊張などとはかけはなれた笑顔でそう言うと、マイクの電源を入れた。



「よし!3年B組長曾我部元親、歌います!」



間発入れず音楽が流れ初め、ざわついた体育館は静かになった。



「あ、俺様この曲知ってる…」
「Me too…」
「あーあれか…ってことは」



佐助、政宗、慶次が一斉に一歩退いてステージを見ていた元就を振り返った。その三人のニヤニヤニマニマニタニタ顔に、元就の顔は逆に引きつり、思わず後退りをした。



「な…、なんだ」
「いやー愛されてるねぇ就ちゃん」
「まぁ聴いてやってくれや」
「恋はいいねぇ」
「いっ、意味が分からぬ!」
「今分かるってば、ほら」



何が言いたい!はっきり言え!と怒鳴りかけた時、元親の唄声が聴こえて、反射的にステージを見ると、バッチリ目が合ってしまった。元親は元就から目を離さず唄い続ける。それはもう有名で誰もが知る、所謂ラブソングであった。瞬間、三人が言った意味が分かってしまった元就は顔に熱が集まっていくのを嫌というほど感じた。
とても上手いとは言えない歌声に、しかし体育館にいるの生徒たちは全員立ち上がり、手拍子まで始まってしまった。



「い、今すぐやめさせろ…!」



動揺して今にも暴動を起こしそうな元就を何処にも行かないようにと抑えた三人の顔には、こんな面白いものを逃すかという魂胆がありありと見てとれた。



「貴様ら…!離せ!我はもう帰る!」
「何言ってんの〜これからが面白…いやいや良いところなんだから!」
「そうだぜ?主役がいなくてどうする」
「チカちゃんずいぶん練習したと思うよ?就ちゃんの為にさ」
「頼んでない!」



この個性バラバラな友人たちがこの時ばかりは一つにまとまっていた。何とかこの恥ずかしすぎる空間から逃げ出そうとジタバタ悪あがきをしてはみたものの、自分より体格の良い男三人に抑えられては、無駄な抵抗だった。ステージ前で唯一意味が分かっていないであろう幸村がキラキラとした目で元親を見ている。それはいささか、ヒーローショーを見る子供のようだと思った、が。すぐにその思考は、あの男に奪われることになる。
それは、自分の生きる意味は君、というような詞であった。
未だ終わらない拷問に、元就の心臓は激しく鳴った。あれは本物の馬鹿だ。今まであんな無鉄砲で馬鹿な男に出会った事はない。そんな奴になぜ我が振り回されなければならんのだ。悔し紛れに下手クソだ、と鼻を鳴らして笑ってやった。しかし、当の元親はますます笑顔になった。失敗した。













元就を後ろに乗せた自転車は、夕焼けの中をゆっくりと進む。こうしてると元就の顔が見れないのが残念だと、元親はいつも思う。



「どうだったよ、俺の一世一代の告白は」
「馬鹿につける薬はないな」
「ひでー!」



ブーブー言いながら項垂れた元親に、ふっと小さく笑った元就は目の前の大きな背中に頭をトンと預けた。その行動に、元親の背筋が伸びた。



「…元就?」
「唄え」
「へ?」
「唄え」
「あ、ああ…うん」



ただ一人の為に歌われた歌が、茜色に混じった。あれほど大人数の前で歌ったというのに、今の方が何故か緊張しているようだった。それが分かって、元就は珍しく吹き出した。



「ぶっ、下手クソ…」
「笑うな…っ!」



しかしすぐに二人して吹き出し、自転車をぐらつかせながら笑った。
それはとても温かい帰り道。二人だけの歌がそこにあった。




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