出会いはそう、こんなあたたかな雲一つない春の日。 一目惚れだった。 同じ制服、同じクラス、同じ“元”の字。 勝手に運命を感じた。 元就の事を知っていくうちに、止められない程好きになっていった。 しかしその過程で分かったこと。 旧家の子息である元就には許嫁がいた。 当人の意思など無視の決められた未来。 それでも限りある時間の中で俺は、俺たちは恋をした。 当たり前のように過ごす日々、それは俺たちにとってかけがえのないものだった。 学校の帰り道、自転車に二人乗りをして夕日を見たこと。 図書館でテスト勉強を手伝ってもらったのに寝てしまって、おもいっきり殴られたこと。 雨に降られて走った帰り道、初めて手を繋いだ。 屋上で授業をサボっていたら、不機嫌な顔で連れ戻しに来てくれた。 夏の初め、放課後の教室で不意打ちにした初めてのキス。 真っ赤な顔をした元就にボディブローをくらった。 お互い一人暮らしだったから、なんとか元就を口説き落として二人で住み始めた。 そして初めて肌を重ねた夜。 元就の口から好きだなんて聞いたのはあの時くらいだったと思う。 すごく幸せですごく満たされていた。 昨日晴れて高校を卒業した俺達は、これから違う道を歩く。 元就は都内の大学へ進学、俺は地元に帰って家業を継ぐ。 大学を卒業すれば元就は結婚させられる決まりもある。 口には出さないがお互い、今までの関係でいられないこと位、充分すぎる程分かっていた。 俺たちの関係は今日、終わる。 元就ならば許嫁の子といい家庭を築けるはずだ。きっと生まれてくる子どもは可愛いのだろう。 俺は…。俺は… 時間だ。 「…じゃあな、元就」 「あぁ」 「…元気で」 「そなたも」 「……」 「早く行け」 「元就、俺…」 「ありがとう」 「へ?」 「ありがとう、元親」 そう言って目の前の元就は穏やかに笑った。 だけど俺は何も言えなくて。込み上げる涙を抑えるのに必死で。 不意に発車のベルが鳴り響き、タイムリミットを告げる。 どうしようもなくて、俺は自分より幾分か小さな元就を必死に抱き締めた。壊れるほど強く抱き締めて元就を刻み込んだ。 そうしてかすかに元就の震えているのが分かった瞬間、それまで何とか堪えていた涙が溢れ出して、止まらなかった。 思い出す。昨夜、紛らわすようにどちらからともなく抱き合った時は、元就が静かに涙を流していた。 その時も俺は、何も言えなくて。 いつも、いつでも俺は何も…元就には何もしてやれなかった。 だからどうか、どうか元就が早く自分を忘れてくれますように、そう願う。 俺はきっと、無理だから。 早く、離さなければ。彼に自分という存在をこれ以上、残してはいけなかった。 だけどせめて最後に、 「…っ、ありがとう、元就」 言えた。 精一杯の力を振り絞って体を離し、次の瞬間には電車に飛び乗った。すぐに背後のドアが閉まる。 涙が止まらない。 もう、振り返えることが出来なかった。 動き出した電車は、止まらない。 「元親!」 不意にドア越しに自分を呼ぶ愛しい声が聞こえて、俺はその場に崩れ落ちた。 「っ、元就…元就…」 ごめん、ごめん。 いつも俺はもらってばっかで。最後の最後まで、何もしてやれなかった。 ありがとう、ありがとう。 こんな俺を好きになってくれて、出会ってくれて、ありがとう。 元就。いつまでも俺の愛しい人。 きっと最初で最後の恋だった |