「ぬわっちー」
「日本語喋れ」
「いやそれお前にだけは言われたくない」



にしてもたりーなーと欠伸をする元親を左目に政宗は再び五月晴れの天を仰いだ。
この学校で恐らくは一番そこに近いであろう屋上で、何もせずただ寝転がって時間を潰している二人ではあるが今は午後一の授業中。しかしこれはこの二人のよくやることで、むしろ日常の光景とも言える。
元親が言うように、今日はこの季節にしては気温が高くて思わず顔を歪ませるほどだった。
しかしあれだ、サボっておいて何だが、暇だ。



「サボっても暇だねぇ政宗よ」



元親と思考がシンクロしていたことには今更な気がして驚かないが、なんだか今とても深いため息をつきたくなった。



「まぁな…けどそれがいい」
「あー…つか元就怒るかなー」
「いや、我関せずだろ」
「お前悲しくなること言うなよなぁ…」
「どーでもいいんだよお前のことなんか」
「ちょ、まじ傷付くし」
「バカだなお前」
「あー…まぁ確かに元就バカではあるな…」
「Ha!付き合ってらんねー」



隣で毛利の魅力についてブツブツと語り始めた元親に呆れながら目を閉じる。
こいつは同じクラス毛利の事になるといつもに増してウザくなる。最初はなぜ優等生の生徒会長様とこの銀髪で眼帯の不良がつるんでるのか不思議だったが、元親が言うには幼馴染みらしい。それにしても正反対すぎていっそ笑える。むしろそれが上手い具合に二人を繋いでいるのだろうか…分からない。…いや、つか、そんなことはどうでもいいんだよ。俺はとりあえず迷惑をかけられずにいられればそれでいい。佐助みたいに持って生まれたような世話焼きなんか冗談じゃねぇし、幸村ほど鈍感じゃない分、変に関わるのだけは勘弁だ。静かで穏やかな日常が過ごせればそれでいい。ただ、こいつがそれを天然で許さない節があるのが厄介なのだ。
今度こそ大きな溜め息をついて、ゆっくり目を開ける。日差しは嫌というほど強いが、風は心地いい。
新学期が始まったかと思えばこうしてすでに初夏とも言えるような季節になっている。
時が経つのが早く感じるようになるのは、成長したってことなのか、としみじみ考えていると突然近くで電子音が鳴り響いた。



「お、オレオレ」



いや二人しかいねーんだしそりゃ分かる、とは面倒で口にしなかった。



「お、佐助だ」
「なんだって」
「天気いいから急遽グラウンドで野球…ってマジかよ!」
「…体育だったっけか、今」
「…行く?」
「や、面倒くせぇ」
「だよな…って、あー!」
「んだよ!うっせーな!」
「元就の体操着姿〜」
「……」



物凄い勢いで立ち上がり、手すりに抱きついて身を乗り出しながらグラウンドを見下ろす元親の周りにハートが見えたのは気のせいにしておきたい。とりあえず、また溜め息をつきたくなった。
こいつと一緒にいたら俺の幸せがどんどん逃げていく気がする。



「おーいるいる!」
「バレんなよ」
「わーってるよ…、あーっ!!」
「…今度は何だ」
「佐助が元就の髪結ってて…マジかよ…やべ、超かわいい…!」
「………」
「グッジョブ佐助!」
「………」
「やっぱ俺行くわ!」
「あぁ?」
「お前もたまには出ろよー」
「Shit!テメェにだけは言われたくねぇ!」
「じゃあな〜」



政宗の最後の皮肉さえ元親には届いてなさそうだった。
階段を駆け降りていくバタバタという間抜けな足音を聞きながら舌打ちをひとつ、一人になった屋上で目を閉じた。
元親が毛利に殴られる所を見るのも悪くなかったが、今はとにかく。



「…疲れる」



実感のこもった小さな呟きは頭上の青い空を渡る飛行機の音に掻き消された。






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