「よくも飽きないものだな」 「生活かかってんでね」 この状況は決してよくない。 俺は所謂パパラッチで、この男は政治家の先生様、つまりは目標物。その端正な顔立ちに品のいいコートを着こなす若きエリート様を、今日も今日とて追っていた。すると突然その背中が振り返り、こちらに一人向かってきたのだ。すぐにしまったと思った。しかし何故か今、こうして会話している。 「それで?」 「あ?」 「狙いは」 「言えるかよ」 「フン」 分かっている。こいつを狙ってるやつなんか他にいやしない。俺だけだ。それは時に一大スクープをもたらすが、この場合ネタがないのも随分前から分かっていた。誰もが手を引いた。狙いなんかない。 「親切心だ。私からは何も出んぞ」 ああ、きっとそうなんだろうが。 しかし俺は、 「立花仙蔵。あんたに興味がある」 「ほう…それは仕事か?それとも私情か?」 「…さぁ、どうかな」 「なるほど今日びのパパラッチとやらは随分余裕があるらしい」 「そうでもねぇ…ただこれは俺の場合だ」 「まぁいい、付き合ってやろう」 「は…?」 「私から何かを掴んでみろ」 見たことのない笑顔だった。 彼は楽しんでいる。 こういう顔、するんだ。 俺もなんだか楽しくなってきた。 「きっと面白い」 「あんた変わってんな」 「それに興味を持つお前もな」 「じゃあ遠慮なく」 「期待している」 その笑顔に、気付いたら。 きっと興味にとどまれない。 俺が追っていたものは。 俺が追いたいと気付いたものは。 「お前、名前は」 「…何故聞く」 「お前だけ私の名前を知ってるのは不公平だ」 「何か勝負でもする気かよ」 「おや、違うのか?」 面白い。自然、自分も彼と似たような笑みになるのが分かった。 「食満だ。食満留三郎」 「食満留三郎…覚えておく」 颯爽と立ち去る立花の背中が、いつものそれと違って見えた。 (パパラッチと政治家) |