運命なんてものがあるとするならば、俺達はきっと…否、確実にそれに触れているのだと思う。こんな広い世界で、同じ時代に、同じ学園の、同じ組で、同じ部屋。同じ齢の、同じ春生まれ。これはもう出逢うべくして出逢ったんだと、言い切っても良いと思うんだ。


「今年も、綺麗だね」
「あぁ…変わらないな、ここは」


大きな桜の咲く丘で、二人きり。平和だなぁ、なんてよく言えたものだと可笑しくなってしまったけれど。それでも今、二人の周りはそうだった。目に見えるもの、耳に聞こえるもの、肌に感じるもの。薄い桃色も、澄んだ青い空も、柔らかい風も、眠たくなるような幸福と優しさを持って二人を包む。


「春は好きだ」
「可愛いね、留さん」
「はぁ?」


くすっと笑って、伊作の手が俺の頭に伸びた。一瞬、撫でられるかと思ったそれが、しかしすぐに離れた。その手には小さな桜の花弁があって、勘違いだと気付く。その気恥ずかしさと言ったらなかった。


「あ…ありがと」
「可愛いなぁ」
「…もうそれ言うな」
「あはは、ごめんごめん」


時々敵わない。このての事には特に。それでもこの笑顔があれば、どうでもいい。ふわりと春風が生まれて、また淡い色の花弁を誘った。


「よく考えたら僕は、留さんにごめんばかり言っていた気がするなぁ」
「また急にどうした?」


それから伊作はまるで思い出を撫でるように、周りから「不運」と言われ続ける自分の身に起こった様々な出来事を話し始めた。それを笑って聞いていたけれど、ふと気付く。伊作はどんなことがあっても、最後にはいつも笑っていたと。そしてそのどの場面にも、俺がいたことを。


「誕生日おめでとうって言われるのは嬉しいね」
「…あぁ、悪くない」
「でも…僕はね、留の生まれた日には君にありがとうを言わせるんじゃなくて、言いたいなって思うんだよ」
「伊作が?」
「そうだね、例えば…」


生まれてきれくれて、ありがとう。
照れたようにそう言って、それでもとても幸せそうに笑って桜を見上げた。あぁ…君をこの桜ごと閉じ込めてしまいたい、そう思った。俺はその横顔から目が離すことが出来ない。


「出逢ってくれて、ありがとう。僕のこと…好きになってくれて、ありがとう」


まるで詠うように、穏やかな心から生まれた言葉が届く。ほんのり色づいた頬はまるで咲き誇る桜のようで。この身体中から止めどなく生まれる愛しさが、どうやったって溢れ出しそうだ。けれどそうやって、君に伝わればいいと思う。これはきっと言葉だけじゃ、伝えきれない。それでも、それを放棄する気はない。


「伊作、」
「ん?」


君を守りたいだなんて、きっと怒られるよな。だからさ、せめて約束くらいはして欲しいんだ。守らせて欲しいんだよ。こんな様々な災いと隣り合わせの不確かな命でも、それは意味を持つ。きっと持たせる。俺らが生まれたことに、君と出逢えたことに、君に、


「ありがとう、伊作」


君に出逢えた。君に恋した。それはいつもこんな暖かい春の日だった。待つ刻はとても長く、恋しさ募る。穏やかなはじまりの風に舞い散りゆく花弁は、次への約束。変わらずここにまた、咲くから。だからまた逢いに行くよ。出来れば一回り大きくなって。変わる俺らは、だけど変わらないものを持って。この手と手繋いで、幸せ色溢れるこの丘まで。





(僕らが生まれたはるのひに)





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