「喜三太、顔に土がついてる」 「んー?あぁ、さっきナメさん探してたから」 「…だと思った。ほら、」 呆れたようにそう言って僕の顔を拭ってくれる金吾はね、とっても優しい。もっともそれは僕にだけじゃないけれど、僕には特別そうだと思うんだ。そして僕は剣の稽古のせいで硬くなったこの手が大好きだ。大きくて優しくて温かい。こうやっていつも僕を包んでくれる大好きな手だ。 「金吾はいい男だねぇ」 「なっ…に言ってんだよ…」 それに金吾は照れ屋さんで、それがとっても可愛いんだ。この何とも言えない表情が堪らなく愛しい。でもそれを可愛いって言うと機嫌が悪いふりをするから、代わりに僕はこう言ってあげるんだ。 「うん、かっこいいよ」 だからといって、これは嘘なんかじゃない。だって、剣の稽古をする金吾は誰よりもかっこいい。重い真剣を一心不乱に振るう姿は、武士そのものだ。それから顔も名前もその体も…そうだ全部だ。そして彼自身それに気付いていないところがまた、かっこいいと思う。 「もう、やめろよ…!」 ただちょっと不満があるとすれば、なかなか僕みたいに素直じゃないところ。あまり言葉数が多くないところ。でも、それもいいかなって思えるんだ。だって、本当の君を僕がわかっていればいい話だからね。そして僕はそれが面白いくらいにわかってしまうから、やっぱりこれでいいんだと思う。 「ねぇ、今日も一緒に寝ようね?」 「ばっ…!」 あ、いま絶対「馬鹿」って言おうとしたよね?でもそれは、わかりやすい照れ隠しだから許してあげる。簡単に真っ赤になって焦っている可愛い君に、僕はたくさんの言葉をあげる。恥ずかしくって、困っちゃうくらいの言葉をあげる。 「だぁいすきだよ、金吾」 「……言わなくていい」 「ねぇ金吾は?」 「……知ってるくせに…」 本当、君はずるいよねぇ。こういうのは言葉にして欲しいんだって、わからないかなぁ。そんな君をもっと困らせたくてお仕置きとばかりに、そっぽを向いてがら空きのその頬に唇をつけた。言わばこれは僕の秘密の趣味みたいなものだ。あぁほら、次の瞬間に君がどんな顔をして困ってみせるのかがわかるよ。それを期待して、僕の頬は幸せに緩んだ。 君を幸せに困らせたいな |