長屋の廊下をぼーっと歩きながら、竹谷は柄にもなく悩んでいた。数日前からどうも兵助がよそよそしい。三郎たちへの態度と自分へのそれとが違う気がする。そう考え出したら、いや、もっと前からそうだったような…という気もしてくるから困ったものだ。それともう一つ、兵助に想い人がいるということにも大変驚いていた。今までそんな話をしたこともなかったし自分にそんな相手もいないから当然、兵助もそうだと思ったいたのだが。いるならいると教えてくれたって…。友達なのに水くさいというか寂しいというか…


「あああああ…」
「どうしたの?」
「…!」


かけられた声に驚き振り返れば、図書室からの帰りだろうか、何冊かの本を抱えた雷蔵がいた。というかいつの間に…。その気配にも気付かないなんて…


「…なぁ、雷蔵」
「んー?」
「…俺って頼りない?」
「なに、どうしたの急に」
「…や、なんでもない」
「あ、そう」

雷蔵、ちょっと俺に厳しくないか…?そっけないその反応にいじけそうになりながら深いため息をつく。しかしそんな俺に追いうちをかけるかのように雷蔵は淡々と言った。


「そう言えばさっき、飼育小屋の方で騒ぎ起きてたよ」
「え…」
「いつものように」
「……」
「行ってらっしゃい委員長代理」
「……今日は何が逃げたんだー!!」


ドタバタと竹谷が去っていった後には、雷蔵の呟きだけが残った。


「…兵助にも教えておこう」















西の空が赤く、染まり始めていた。

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