「それって、ハチのこと好きってことじゃない?」 四年生の初夏だった。これは間違いない。雷蔵の言葉に、おれは正に固まった。だって、だっておれはただ「最近竹谷といると変に緊張する」って相談しただけなのに…。 それの始まりは随分と急だった気がする。気が付けばそうなっていた、というのが正しいと思う。今までそんな事はなかったのに、例えば肩を組まれたり、名前を呼ばれたり、そしてあの笑顔を見るだけで…最近はどうしようもなく胸が早鐘を打つのだ。 たっぷりの沈黙の間、雷蔵はいつもののほほんとした笑顔を湛えたままだった。 「な、何で急にそんな話になるんだよ!」 「急に、かなぁ?」 「だって、おれ一言も…」 「えー言ってるようなもんだよ」 「なっ……」 「好き、なんでしょ?」 「…誰が」 「兵助が」 「…誰を」 「ハチを」 「……いや、でも…」 「簡単なことだよ、兵助」 「……でも、」 「認めてあげたら?」 自覚して、一気に落ちた。 そう、それは確かに初恋だった。 「でしょ?」 「……はい」 よくよく考えればいい男なのだ、竹谷という奴は。明るくて裏表のない性格。体も大きいが心も広い。ガサツな所もあるがそれが男らしさを際立てていて。何事にも真っ直ぐで、何より優しい。友達になったのも、名前呼びになったのも、背丈が変わったのも、いつもなんとなくで、曖昧だった。だけど、そこにはいつもあの笑顔があって、そしてきっと自分の笑顔もあった。理由なんて並べれば無限にありそうで、そのくせそのどれもが違う気がした。事実はただ確実にそこに存在している、ただそれだけだ。 しかしすぐに押し寄せる後悔。大体こんなもの、男が男に抱く感情ではない。ましてや気のいい友達なのだ。もしこんなものが溢れたら、気付かれたら、きっと今までの関係ではいられない。それがどうしようもなく怖かった。だから気付かなかったことにした。なかったことにした。これから先、この想い伝える事なんて決してない。そう決めた時、雷蔵は「本当にそれでいいの?」と何度も問い詰めてきたけれど、おれの答えは変わらない。これでいい。だって竹谷は友達なんだから。そう思えばすぐに忘れられる自信はあった。一時の気の迷い、あるいは若さ特有の持続性のない、そんな想いならばすぐに。 しかし、これは厄介な方のそれであった。 だから正直、今は辛かった。そんな決心とは裏腹に日に日に育つ彼への想いは色と熱を帯びて、兵助自身を困らせていたから。そうして言うことを聞かない恋心を、もてあましていた。 そこにずっと居たって、どうもしてあげられないんだぞ…。 |