「兵助くんってがんばり屋さんなんだねぇ」
「…何だよ急に」
「だって、五年生なのに委員会まとめてるし」


もしかしなくても自分のことを「兵助くん」なんて呼ぶのはこの人だけではないかと、何故かその時ふとそう思った。
委員会の仕事も終わり、さて部屋に帰ろうかという時、薮から棒に隣を歩く斉藤が気の抜けるような声でそう言うものだから、兵助の眉間には深い皺が寄った。言われてみれば確かにそうだが、兵助にとってそれは五年に学年が上がった時からそうであったし、他の委員会と違い、別段大変と感じた事はなかった。しかし改めて周りからはそう見えているのかと思うと、何故か言い訳をしたくなる。だってそれは、本当に、


「そんなことはないよ」
「そう?」
「それに斉藤だって、」


そう言えば最初は「タカ丸さん」だったなと思った。しかしそれもほんの何週間かで、すぐに斉藤になった。怒鳴る回数は早くにピークを迎え、次第に諦めと諭しが主になった。この人間が醸し出す雰囲気、それこそこの人だけではないかと思うそれがそうさせたのだと、思う。


「僕?」
「そう、頑張ってるじゃないか」


一年より忍としての知識も経験もないのに四年生として授業についていけて…いるのかは別として、素直にそう思う。何もおれが特別だなんてことはないのだ。しかしそれに対し、斉藤はふにゃっと笑っただけだった。


「でも無理しちゃダメだよ」
「は…?」
「兵助くんは気付いてないけど、見てるとちょっと心配になるよ」
「なん…で、」
「でもそれも兵助くんらしさだからねぇ」
「…意味、分かんねぇ」
「そっかぁ」


本当に意味が分からない。おれが何だって言うんだ。そんな事、言われた事もないし気付きもしない。大体出会ってまだ何ヵ月かしか経ってない人間に言われるような台詞ではないと思う。それでも、兵助の中で何か、何とも言えない感情が生まれた。


「あ、」


ふと立ち止まった斉藤の視線の先に、桜の木があった。淡い色を満開にしたそれは、形容に困る程の美しさだった。綺麗だ、とても…


「綺麗だねぇ」
「…あぁ」
「桜って、兵助くんの綺麗な黒髪によく似合うよね」


再びの突飛な言葉に、律儀に戸惑う。そんなの、一体どう返せばいいと言うのだろう。しかしおれは…。そう言う斉藤の色素の薄い髪が羨ましいと、そう思ったことは言わないでおく。ただ、春の優しい風に遊ばれた髪に目を奪われた。それがとても、綺麗だと思った。


「兵助くんが卒業しちゃったら、僕が委員長なのかな」
「…まぁ、順当だろうな」
「それはちょっと…困るなぁ」


満開の桜にあてられたような会話に、少し胸が疼く。眉をハの字にして、斉藤は笑った。春を象徴するこの花は、美しさと同時に切さをも連れてくるようであった。それから兵助はちょっとだけ無理をして、ため息をついた。


「困るな。おれが困る」
「あはは、そうだね」


その人好きする笑みが周りに与える影響は大きいと思う。現に、この胸の奥で生まれた何かが、ふわりとした柔らかい風に撫でられた。くすぐったいようなそれが一体何なのか、今は考えない。


「色々教えてね、先輩」
「…おぅ」


今はまだ、このままで。














何もかも、僕たちはこれから

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