「「シーロー…」」
「はぁい!」


時友四郎兵衛、愛称シロ。
ぽけっとした見た目に似合わず、体育委員会の一員として日々過ごしているせいで、これがなかなかの体力の持ち主である。しかし今はそれを恨まずにはいられなかった。七松先輩め。とにかく、自主練でマラソンをしていたはずが思いがけず沢山の花が咲く野原を見つけてしまったのがいけなかったようだ。


「手は上げんでよろしい」
「その上笑顔ではぁい!じゃねー」
「なぁんで怒ってるのさ、三郎次に久ちゃんまで」


なぁんでかって、誰か教えてやってくれ。お前は長時間、何をやっている。花を摘んでいる。オーケー見れば分かる。そういうことじゃなく。その目的だ。口に出すのもたるいと、二人は目だけで会話をする。オーライ同じ考えだ。


「どうすんだよ、それ」
「んーちょっとねぇ…」


三郎次の問いに返ってきた答え。嫌味になればと、わざとついた久作の盛大なため息は、その小さな耳には届いていないようだ。何とも自由。何ともマイペース。いっそその背中を蹴りたく…ならないのが悔しかった。もう諦めている感がある。シロがこういう奴であることは自分達が一番よく知っていた。


「好きな人にね、あげるの」


瞬間、固まった。何だそれ…!どういうことだ…!と思わず出そうになった言葉を、二人はグッと飲み込んだ。そしてすぐに会議再開。ちょ、あれどういう意味だ!いや、ありえない!紛糾する議論の中、のんびりした声がその答えを紡ぎだした。


「七松先輩でしょ?滝夜叉丸先輩に次屋先輩、それと金吾に!」
「あー…」
「そう…」


その答えはやはり、のんびりとしたものだった。あの言葉にドキリとしたのは何だったんだ。まさかシロが!?まさかこのシロが!?と、色めきだった考えはどうやら無駄だったらしい。シロはやはりシロだった。


「左近にもね、あげるよ」
「あー…喜ぶんじゃね?」


いよいよ適当になる久作の受け答えも仕方がない。しかしそんなことも気にする様子を見せない四郎兵衛は、両手いっぱいになった花をにこにこと見つめながらようやく立ち上がった。ああこれでやっと帰れる、と三郎次は伸びをし、久作は欠伸をした。そんな気の抜けた状態の二人に、四郎兵衛は綺麗な花を差し出して笑った。


「三郎次にも」
「ん?」
「久ちゃんにも」
「あ?」
「いつもありがと、ねっ」


三郎次の手に水色、久作の手には黄色と、それぞれを表したような花が握らせられていた。ここで最終会議。ああ、お前の言いたいことは分かる。


「「ばーか」」
「えへ」















ああもう…こういう奴なのだ

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