眩しい。
ほぼ真上に移動した太陽が、容赦なく照りつけている。手を伸ばして影を作ると、それが少しだけ緩和した。視界の端から端を、鳥が気持ち良さそうに飛んでいる。ただ白いだけの雲は刻々と形を変えながら忙しなく流れてゆく。やや乾燥気味の、けれど爽やかな風が吹いている。練習が終わっても聞こえるボールを蹴る音に、風の音までが既に耳に馴染んでしまった。こうしていると、空を縦横無尽に飛び回るあの名前も知らない鳥の視点に近付いたような気がして不思議だった。大体にして彼方は上から見下ろす、此方は下から見上げているのだから立場はまるで逆なのだ。その上、対するものの大きさに自分の矮小さを再確認したりもする。しかしだからどうということでもなかった。所詮一人の人間などは地球規模で捉えれば取るに足らない存在でしかない。それはあの鳥とて同じはずだ。そんなことは先刻承知である。だからこうしていることに目的などという大層なものは端からない。ただ、そう、昔からこの場所が好きだった。空にピッチが浮かぶ。相手の戦い方、特徴、弱点、転がるボール、走る選手達。必要なもの、不必要なもの。そこに最後に残るのは、何か。俺は、そこで何が出来るのか。


「達海、ここに居たのか」


突然声が届いて、遊離しかけていた思考が引き戻された。投げ出した足の先、登ってきた梯子がある方へ視線を送ると、何時ものようにどこか困ったような顔をした後藤がこちらを見下ろしていた。声を掛けられる今の今まで、その存在に全く気が付かなかった。


「何か用?」
「そう言われると…困るな」


つまり、特に用は無いのだろう。伸びをしながら間抜けな欠伸なんかしている。どうやら徹夜明けらしい。だとすれば、早く帰って眠ればいいのにと思う。本当に何をしに来たのだろうか。


「気持ちいいな」
「んー」


空だけだった視界に、後藤の後ろ姿が加わった。そしてボールを蹴る音と声、風の音が戻ってくる。この身を取り巻く全てが穏やかに過ぎて、眠たくなってしまう。


「達海、そんな所で寝るなよ」


いつの間にか閉じていた目蓋を緩やかに上げると、眩い世界が戻って来る。太陽を背にして此方を覗き込む後藤の顔が、近くにあった。何も言わずに手を伸ばすと、仕方ないなと言いたげに苦笑をして後藤の手がそれを掴む。助けられながら上半身を起こすと、脳が揺れた。同じように眼前にぶら下がっているネクタイを掴んで引き寄せて「じゃあ一緒に寝る?」と首を傾げると、驚きの表情が悪戯な笑顔に変わった。


「惹かれるな、それは」


笑って軽いキスをする。
グラウンドから届いた笑い声が少しだけ、遠くに聞こえた。




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