「お前飲みすぎだって」
「うーん…」


最初の乾杯から今までの約二時間余りの間に何をどのくらい飲んだのかと問えば、ビールに始まりワイン、焼酎、日本酒、果てはウィスキーというとんでもない答えが返ってきて流石に飽きれた。しかしそれが椿の性格上の問題なのか、それぞれを嗜んでいる先輩達に勧められるがまま断ることが出来ずにヘラヘラと飲み続けたらしいことも容易に想像出来てしまう。自分はと言えば、食べることと喋ることに気取られていて、椿がそんな状況にあることに気付くのが遅れてしまった。もしかすると、あまり飲まないでいた自分の分も椿にシワ寄せがいっていたのかも知れない。
小さく返事をしながら、更に手にしていた酒を煽ろうとした椿から無理矢理コップを引きはがし、だらんと力の抜けた腕を肩に回させた。酒のせいで密着した体が熱い。腰を支えながら立ち上がると、近くから「大丈夫か」と声がかかった。堺さんの、いつもの無表情と目が合う。動揺を隠すように「ちょっと外の空気吸ってきます」とだけ言って座敷を出た。ざわめく店内も抜けて外に出ると、空気中のアルコール濃度がようやく薄くなったようだった。ふらつく足元に注意しながら、俯いたままの頭に声をかける。


「おーい」
「う…はい…」
「俺のこと、わかるか?」
「ミヤちゃん…でしょ」


酔ってるくせに、話し掛けてから今まで一度も目が合わなかったのに、わかるのか。
けれどいざ名前を呼ばれると、その後が続かなくなってしまう。


「お前さ、断ることも覚えろよ」
「んー…」


苦し紛れの説教じみた台詞を遮るように、椿は呻き声を漏らしながらもぞもぞと体を動かした。背中に両手がまわって戸惑う間もなく、胸に顔を埋めるようにして抱きつかれる。
ここで吐かれては堪らない。
どうにか体を離そうとしたが、今までどこにそんな力があったのかというほど強い力で抗われてしまった。


「…気持ち悪いのか?」
「え…?全然…おれ、ミヤちゃんすき…だし…」


こいつは一体何を言っているのか、理解するのに数秒を要した。その間も、密着した体から高い体温が確実に伝わってくる。真面目に酔っ払いの相手をするべきではない、それだけは確かなようだった。


「…そういう意味じゃ、ないんだけど…」


とにかく今は自分の中の何かが決壊しないように、ただそれだけに精一杯だった。店内から漏れる笑い声に努めて耳を傾け続ける。そうやって何でもないフリをした癖に、忘れられそうになかった。
触れ合った体が、熱い。




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