ミンミンミン。
ジージージー。
一体どこにいるのか、姿は見えずとも耳に届く声がその存在を証明していた。今日も、蝉が鳴いている。
いつものように「記録的な暑さになりそうです」と言っていた天気予報を思い出して思わず鼻で笑うと、隣に座ってスポーツドリンクを飲んでいた世良の視線を奪う結果になってしまい、内心で舌打ちした。


「思い出し笑いはエロいって…」
「皆まで言うな。大体、笑ってねぇよ」


ただ、毎朝繰り返されるその常套句に呆れただけだ。けれどそれをわざわざ口に出して弁解のような説明をする気はない。


「堺さん」
「あ?」
「今日はたぶん、今年の最高気温更新しますよ」


そっと秘密を打ち明けるように、けれど自信満々といった風情で断言した世良は得意げに笑った。根拠などないに違いないのに、何故かどきりとして否定することを忘れてしまった。


「んーやっぱ背高い人の方が太陽に近いし暑いのかな」


その視線の先には別メニューをこなすキーパー陣がいるのだろう。言いながら首を傾げる仕草が視界に入った。
やはりこいつは馬鹿だ。


「お前みたいに地面に近い方が体感温度高ぇだろ、普通」
「ドキッ!」


いちいち癇に障る反応に苛立つことさえ、それが世良の言動に振り回されているようで腹が立つ。


「堺さんは信じます?」
「…何をだよ」
「こういう、何か知らねぇけど…でも確信あるってやつ。んーと、何て言うんスかね?」


知るか。俺に聞くな。
また汗が流れて、足元に落ちた。輪郭さえ溶けだしてしまいそうな暑さの中、練習用の汚れたスパイクに太陽の光りが反射している。
「フォワード集合」の合図に腰を上げるとほぼ同時に、隣で嬉々とした声が響いた。


「わかった!第六感だ!」


軽い目眩がして、今度こそ舌打ちをした。
何処かで蝉が、うるさく鳴いている。




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