「ちょっと待って、ミヤちゃん」


今時、同い年の男を大真面目にちゃん付けで呼ぶ奴なんてどれくらいいるだろう。いっそ呼ばれる方が恥ずかしい。それを受け入れてしまったことを、たまに後悔する。しかし、あの何の打算もなく純粋な瞳の前ではそれも致し方ないことだと思う。少なくとも俺は、それに勝てなかった。


「これ、ありがとう」
「あぁ、うん」


手渡されたのは、先日練習の時に貸したタオルだった。たまに抜けたところのある椿だが、それが愛嬌として許される類の奴でもある。洗濯されて綺麗に畳んであるそれに、彼が生まれ育ってきたバックグラウンドが伺えた。


「芝」
「え?」
「お前、シャワー浴びた?」
「あ、浴びたよ」


鎖骨の辺りに付いていた芝を取ると、椿は照れくさそうな顔をして笑った。
たまに、本当にごくたまに、だ。
この笑顔によって、言いようのない何かが自分の中で生まれている気がするのは。
けれどそれが一体何なのか、それ以上考えようとしたことは今のところない。


「なぁ」
「ん?」
「…何でもない」
「え、え?」


目をきょろきょろとさせて戸惑っている反応が面白くて、ついからかってみる。普段のこいつは試合中のような、あの得体の知れない、けれど見るものを一瞬にして引き付けてしまうような何かを持っている男には到底見えない。
だから、からかいたくなる。
それだけだ、と言い聞かせる自分に、今日も目を瞑った。


「何でもないよ」




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