それから苦労して毛利を落ち着かせ、自分も勝手に玄関に上がり込んでドアを閉めた。
薄暗い中、手探りで電気をつける。そしてはっきりと分かる異様さ。


「……」
「………」


取り乱したことが余程ショックだったのか、さっきから毛利は黙ったままで俯いている。
とりあえず、と毛利の前にしゃがみこんでから出来るだけ柔らかく言葉を発した。


「…その痣とか血、」


またもビクッと肩を揺らして強ばるのが分かった。何かに怯えてるようなその様子は、普段のこいつからは想像すら出来ない。


「親とかいねーの?」


今度は更に体を震わせながら次第に息が荒くなる。


「あー…じゃあとりあえず手当てとか、酷いようなら病院とか行っ」
「やめろ!」


今度はこちらがドキリとする番だった。理由は分からないが今こいつを刺激してはいけない、ということだけは分かった。だったら、


「分かった、じゃあ救急箱とかあるか」
「……」
「あー…うん、そっか…」
「……」
「…俺んちまで歩けるか?」


何言ってんだ俺。
しかし気付いたら口にしていた。
微かに揺れたその弱々しい鳶色の瞳から目が離せなかった。










当初の目的なんてもう、頭になかった。
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