元就をベッドに座らせ、その前に膝をついた元親はスタンドの小さな明かりの中でほんのり色づいて見える風呂上がりの身体にそっと手を触れた。傷痕や鬱血、痣などは簡単に消えることなくそこにあった。 「痛かったら言えよ」 そう言うと元就はいつものように頷いた。それでいて泣き言を言ったことは今まで一度もなかった。ただ顔を伏せて、終わるまで何も言わずにじっとしている。何を考えているかを推し量ることは出来ないけれど、それをわざわざ聞き出そうとも思わなかった。 丁寧に軟膏を塗り込み、まだ少し腫れていた腕に湿布、脇腹にガーゼと包帯を巻き終えると、元就がほっと息をついた。 首筋の跡はもうほとんど消えていた。 たとえ他の傷痕が消えずとも、元就は生きていける。 これからそれが増えることもない。 「よし、終わり」 夜着を肩に羽織らせてから、額にキスをした。今更、想いを伝えたことを思い出す。ただ、自分の言葉を信じてもらう理由になれば良かった。けれどそんな独りよがりの想いを、元就は受け入れてくれた。 少しくすぐったそうに身じろぎをした元就から離れ、床に敷いた布団の上に戻る。あまり近付き過ぎると、変に意識してしまいそうだった。 そんな思考を締め出し、薬を片付けようと手にした時、夜着を身につけ終えたらしい元就が立ち上がる気配がした。 「ん?」 元就はそのまま何も言わずに近付いて来ると、どういう訳か目の前に膝立ちになった。それから不意に左目の眼帯へと手が伸び、ゆっくりとそれを外された。その行動に、声も動きも完全に止められてしまう。 「…元就?」 最後に思考までもが停止した。 そこに感覚はほとんどないが、確かに今、元就は左目にキスをしている。 呼吸も心臓も、止まったと思った。けれど気が付けば、壊れそうな程に鼓動が響いていた。 唇が離れ、そのまま抱きしめられる。その元就らしからぬ、けれど勇気を振り絞ったに違いない健気な行動に、思わずその背中に手を回していた。 「……ありがとう、元親」 あぁ…どうすれば、この胸から溢れて止まらない想いを伝えることが出来るだろうか。 愛しい。 愛しくて堪らない。 礼を言うべきなのは俺の方だ。 こんな想いは、元就に出会わなければきっと知ることもなかったのだから。 なぁ知っているか、元就。 お前はこんなにも人を幸福にさせることが出来るんだってこと。 俺の世界を鮮やかに照らすのは他の誰でもない、お前なんだってこと。 周りからも自らも幸せを遠ざけ続けたお前は、これから誰よりも幸せに愛されなければならない。 そしてそれは、俺の幸せでもあるということを。 それが人を愛するということ。 |