学校生活にも慣れてきたその日、体育の授業で決着がつかなかった政宗とのバスケ対決が放課後のグラウンド対決まで持ち越されることになった。
いつの間にか見物客もついて大いに盛り上がった試合は競りに競って結局、僅差で勝利を手にした頃には日もすっかり暮れていた。流石にくたくたになってさあ帰ろうと下駄箱で靴を手にした時、不意に嫌な事を思い出して動きが止まった。


「やっべ…」
「やっぱお前あれファウルだったろ」
「違ぇよ!引きずんな!」
「次はSoccerだからな忘れんなよテメー」
「あーわかってる…ってどうやって?」
「PKに決まってんだろ」
「あー…ソウデスネー」
「で?」
「ん?…って、あー!完璧忘れてた!話それすぎだろ!」
「あ、そう」
「…や、まあいいわ。俺ちょっと教室戻らねーと。確か古文の宿題あったろ?教科書入れっぱだ」
「まぁやるかどうかは別としてな」
「……」
「じゃあな」
「…おー」


こりゃ完全に拗ねてんな…。
えらく遠回りした会話を終えて、さっさと帰っていく政宗の背中を見送りながらそう思った。
しかし意外な彼の人となりを発見した気がして、なんとなく可笑しくなる。
きっとそんな所も俺らは似てると思う。



さて、とりあえず教室だ。
歩きながら携帯で時間を確認すれば既に7時をまわっていて、すぐに足早になる。早く帰って夕飯を作らなければならない。これはこの高校に入ることになった時、実家から遠いことや自身の希望もあり一人暮らしをすることになってから当たり前になった感覚。元々料理は結構得意だし、経済面からも自炊は好きなのだがこういう場合なんかはやっぱり面倒だとか思ってしまう。


「…って、あれ?」


たどり着いた教室には、そこだけまだ明かりついていた。不思議に思いながらドアを開けると、机に突っ伏している奴がいて驚いた。
あれは、えーっと…


「……毛利?」


これは…


「もしかして寝てる?」


寝てる、と。つーかなんで。
とりあえず自分の机から目的の教科書を取り出して鞄に突っ込んでから、もう一度毛利を見る。
廊下側一番後ろの自分の席からは一番遠い窓際一番前の席で、すやすや、という効果音が似合いそうなほどよく寝ている。この様子じゃ委員会とかでもなさそうだが…それでこれは起こした方がいいのだろうか。
おそらくもうそろそろしたら見回りの教師によって起こされるだろうが。
しかしその時、思考に反して毛利に近づくと、なぜか声をかけていた。


「毛利ー」


反応なし。


「委員長ー」


つーか初めてちゃんと顔、見たかも。


「おーい起きろー」


いや寝過ぎだろ、こいつ。
あまりにも起きる気配がないので肩を揺すってみる。


「おい、起きろって」


早く帰りたいのに俺は一体何やってんだか。ほっときゃよかった、なんて今更ながら後悔していると、


「…っ…!?いっ、た…」
「あ?」


その小さな呻き声に、元親は焦った。
痛い?今のが?
しかしすぐにガバッと起き上がってこちらの存在を確認した毛利は、嫌悪感を隠さずに声を荒げた。


「っ……なっ、何だ貴様は!」
「いや、お前全然起きねぇから…」


そう言うと、睨み付けていた鋭い目が教室備え付けの時計に移った。かと思えばすぐに無言で鞄を掴み立ち上がり、スタスタと歩き出して、思わずその背に声をかけた。


「お、おい!今さ…」
「貴様もさっさと帰れ」


いつもの冷たい声でそれだけ言うと振り返りもせずにと教室を出て行く毛利に、言いたいことは沢山あったのだが。


「起こしたの俺なんスけど」


辛うじて言葉になったそれは、誰に届くこともなく宙に浮かんだ。










次の日から毛利は学校に来なくなった。
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