開け放った窓から入り込む朝日の眩しさで目覚めた元親が最初に目にしたのは、ぴったりと寄り添うようにして眠っている元就の、まだ幼さの残る寝顔だった。よく見れば、その細い手が元親の着ているタンクトップの裾をしっかり握り締めている。一気に昨夜自分自身に許した―せざるを得なかった愛しいと想う感情が込み上げたが、その細い首に巻かれた包帯が弛んでいることに気付いて、元親は胸に錘が落ちるのを感じた。それを甘受し汗で額に張り付いた髪を掬ってそのまま頭を撫でると、昨日冷やして様子を見た瘤は随分小さくなっていた。
そのうちに元就は小さく唸って身じろぎした後、ゆっくりと目を開けてしばらく視線をさ迷わせた。


「おはよう」


ようやく視線が合うと、その表情がするすると柔らかくなっていく。今更ながら昨日、元就とキスをしてしまったことを思い出した元親は気恥ずかしさでいっぱいになった。何だかずっと夢の中にいるようであまり現実味がなかった。
突然勢いを得た蝉の声に急かされるように、いつまでも見つめ合ってしまいそうになるのを振り切って体を起こした元親は8時過ぎを示している時計に視線を逃がした。どうやら随分と深い眠りについていたらしい。夢の中で地元の見慣れた海にいた気がするけれど、その全容までは思い出せなかった。目を覚ましたと同時にそれは霧散してしまったようだ。しかし今はそんなことよりもまず全身に纏わり付く汗を流して何かを胃に入れなくては、と思考を切り替えてから不用意にも隣に横になったままの元就に視線を戻した。そのままじっと見つめ合って数秒後、元親は何とか我に返り、ごまかすように笑ってからシャワーを浴びるよう勧めた。
熱はないが身体の痛みと怠さは隠しきれるものではない。手を貸すという申し出は、しかし元就によって強く拒まれた。
包帯や湿布などを外すのを手伝った後、元就に追い出されるようにして洗面所から部屋に戻った元親は、冷えた水で喉を潤しながらぼんやりと窓の外に視線をやった。目にも鮮やかな青空に、早くも立派な入道雲が立ち上っている。盆も間近と言えど、眼前の夏はまだまだ盛りだった。
突然、電子音が部屋に響いて思考を引き戻された元親は慌ててローテーブルに置いてあった携帯電話を手に取った。ディスプレイに表示された見慣れない番号に嫌な予感が過ぎる。通話ボタンを押すと、聞こえてきたのは意外な人物の声だった。


『先程、毛利君の親御さんから学校に電話がありました』


落ち着いた明智の声がいやに懐かしく響いたのも束の間、それはそんな感慨さえ一瞬にして消えるような内容だった。


『当直の私が出たのですが…貴方の住所を教えて欲しいと言われましてね。まぁ、息子さんの同級生と言えども一応個人情報ですし、丁重にお断りしました』


相変わらず淡々と喋る明智に半ば機械的に礼を言いながら、元親は自分の胸の内がざわめく音を聞いていた。


『けれど、それもきっと時間の問題ですよ』
「それは…わかってます」
『もし今貴方が…貴方達が何か問題を抱えているのなら、大人に頼ることも考えてみることです』
「…はい。大丈夫っす」


電話を切って深く息を吐く。
予想出来た展開だった為に驚きはあまりなかったが、予想より早かったというのが元親の感想だった。それから電話の内容は元就には伏せておいた方が良いと判断した。明智は持ち前の異常な想像力で何かを察しているらしかったがとにかく、昨日の今日で父親と冷静に話し合うにはまだ早い。今はなるべく時間を置くことが必要だ。少なくとも元就のあの傷や痣が目立たなくなる位までは。
ふと顔を上げると、部屋の入口で元就が所在無さげに立ち尽くしていた。とりあえずまた濡れたままの髪を乾かしてやった後、気が付くとすぐにぼんやりとする元就の前に座って視線を合わせた元親は、その白くて細い手を取り笑顔で提案した。


「海と花火を見に行こうぜ」










まるでそうなることが決まっていたかのように、夢の残滓に背中を押されていた
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