いつもより早めに帰宅した父親が風呂から上がってそのまま寝室に入っていく音が聞こえた。出張から帰ってきて疲れているのだろう。布団に潜り、息を潜めていた元就はほっと息をついた。
あんなことを言った父親がちゃんと生きていてくれたことに対しても、ほっとしていた。

(それでも、自分が赦されたわけではないのだけれど…)

そうするとまた、さっきまで頭を占めていた思考が戻ってきた。
それはつい数時間前まで一緒にいた元親のことだった。
初めはどうして、という思いばかりだった。
どうして、雨の中を追いかけてきたのか。
どうして、味方だと言ったのか。
どうして、理由を聞きたがったのか。

(どうして彼は、自分のことで涙なんか流したのか)

わからないことばかりだった。
こんな事情を聞いてしまったら、きっと元親も自分を嫌悪するだろうと元就は思っていた。
きっともう関わることをやめてしまうのだろうと思っていた。
だって人は自分のことで精一杯だから。
誰も自分から進んで面倒ごとを抱え込む人間なんていないはずだから。
それでも以前、担任だった教師に感づかれて危うく家庭訪問をされそうになったことがあった。
その時、元就が抱いたのは安堵よりも恐怖だった。
そして一度でもそんな他人に頼ろうと考えてしまった自分に嫌悪した。
どうしようもなく愚かだと思った。
大体救いを求めるなんて、そんな権利もないというのに。
怖かった。自分の罪を打ち明けることが。
そしてまた嫌われることが。

(だけど…)

初めて、だった。
味方だと言ってくれた。
元就は悪くない、と。
同情だろうか。
それとも…。

(信じて、いいのだろうか…)

誰にも許すことのなかった本当の弱い自分を曝け出すのを恐れているくせに、心のどこかで見て欲しい、知って欲しいと思っている。
その言葉は自分がこれまで待っていた言葉に違いなかった。
誰かに言って欲しくて、でも誰からも与えられなかった言葉。
そう思ってしまう弱い自分を知られまいとして、これまで生きてきたのに。
また自分だけが助かろうとしていると、自分自身を嫌悪しながら。だけど本当は―…。
「また明日」
別れ際に、元親はそう言った。
明日、彼は自分を待っていてくれるのか…。

(…もと、ちか)

そうやって彼を呼んだらきっと、驚くだろうな。
以前そう呼べと言われたけれど、まだ口にしたことはなかった。
今更呼んで嫌がられない、だろうか。
そんなことを考えると、胸がどきどきして急に恥ずかしくなった。
慣れないその感覚をやり過ごそうとぎゅっと目を瞑った。
そしてすぐに穏やかな眠りの中に落ちていった。










不思議なことに、体の痛みさえすっかり忘れていた。

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