次に身を襲うであろう痛みにそなえてぎゅっと目を閉じる。閉じてみても開いていても光が差し込むことのないそこは、完全なる闇だった。


「…め、んなさっ…!」


何かにすがるように絞り出した声。しかしすがれるものなんて何一つ、彼には無かった。


(生まれてきて、ごめんなさい)


身体に走る激痛と共に、その思考さえも闇に消え入った。










──春。うららかな陽気の中、長曽我部元親は晴れて高校生になった。
初登校日つまりは入学式の今日、心配していた遅刻もせずに、まだ気恥ずかしさがあるブレザー姿で校門をくぐる。そうしてみれば、まさかこんなまともな高校に入れるなんて家族や本人でさえ思いもしなかった為に何となく感慨深かった。
(まぁ入っちまえばこっちのもんだよな…)
因みに目元が心なしか潤んでいるのは何もそれからくるものではなく、先ほどから止まらない欠伸のせいだ。寝不足と春特有の空気とが作用して容赦なく元親に襲いかかっているのだった。


「ねみー…」


また一つ欠伸を噛み殺しながら、指定されたクラスに移動するために歩みを進めた。四方八方から突き刺さる視線には気付かないふりをして。










ふわりと生まれた春の風に桜の花びらが空に舞った。銀髪を透かす日差しは柔らかい。
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