t r a i n i n g 更新不通知 ▼0125 露仏 綺麗だと思った。 優しい笑顔も、そこに隠したつもりの人より多めの寂しさも孤独も全部。 触れたら壊れてしまいそうな君に、それでも触れたいと思った。 「ロシア」 僕の頭を撫でる手が、包み込む体が暖かくて、それはまるで大好きな花みたいで、僕は自分の頭がおかしくなったのかと思った。 それでもこの暖かさは嘘じゃない。 僕とは正反対なのに、どうして似ているだなんて思ったんだろう。 それでも、それは間違いじゃない気がした。 だって僕には見える。 それは僕と同じように冷たくて暗いから。 だから僕を見つけてくれたんだね。 「フランス君」 君も僕と同じなんだね。 それなのに手を伸ばしてくれたんだね。 そうやって僕よりずっとずっと強いはずの君が今、僕にはとても儚げに見えるんだ。 隠していてもいいよ、僕には見えているから。 それでもこの手を掴んでしまったら、離したくないと少しでも思ってしまったら、僕はきっと君を傷つけてしまう。 自分と同じように。 僕はそれが怖いと思ってしまったんだ。 「…きっと逃げられないよ」 「それはお前だけじゃない…大丈夫さ」 綺麗だと思った。 暖かいと思った。 これからも僕はきっと君から貰いすぎてしまうのだろう。 そのくせ君には何もあげられないかもしれない。 それでもね、二人でいられるなら信じられる気がするんだよ。 僕たちは大丈夫、かもしれないって。 (焼け野が原) ▼1109 独 夢を見た。 とても幸福な夢だ。 朝起きて二人分の食事を用意する。そしてまだ眠り込んでいる兄さんを起こしておはようと言う。行ってきますと言うと行ってこい、ただいまを言うとお帰りと返ってくる。そしておやすみを言って穏やかな眠りにつく。 そんな、ごく平凡だけど幸福な夢。 けれど目を覚ますとそんな幸福は全て幻なのだと容赦なく突き付けられる。もう何度同じことを繰り返しただろう。いつまでもそれは夢のままだった。 夢が夢のままであるのならば、必ず襲われる苦痛を分かっていて、見たくはない。でも、たとえ夢の中だとしても、笑っている兄さんの顔を見たい。 矛盾は当たり前に、この胸に住みついている。 そして今静かに、しかし確実に、沢山の声が直接この頭に流れ込んでくる。 ―寂しい、悲しい、会いたい、会いたい… その全てを受け止め、いつか来る日を望んできっと今夜も夢を見る。 11月9日。 小さなきっかけが大きな流れを生み出し、人が人を想う強さを目の当たりにするその日まで。 (1989.11.9 壁崩壊) ▼0926 露普 「どうしてわかってくれないの?」 果たしてお前は本当に俺を求めていただろうか。 本当にお前だけの理解者を求めていただろうか。 奪うばかりじゃ何も得られないということを、俺たちはもう知っているはずだ。 それなのに、 「みんな僕をひとりにするんだ…君もそうなんでしょ?」 そうやって他人のせいにしていれば楽か? そうやってまた自分から人を遠ざけて被害者ぶるのか? それをこれからも続けるつもりなのか? 一体、いつまで? 「俺たちはもう餓鬼じゃねぇ…そうだろ、イヴァン」 「…そうやって抵抗しないのはお利口だけど…ねぇ、僕に説教するつもり?」 「なぁ、お前はもうわかっているんだろう?」 一度だってお前は、自分から誰かを知ろうと、理解しようとしたことがあったか? 「残念だよ…僕は君のこと、嫌いじゃなかったのに」 「…イヴァン、」 お前の苦しみはまだ、続くんだな? 「なんて顔してるの…冗談だよ」 だったらどうして、お前はそんなにも泣きそうな顔で笑うんだ。 (killing me softly) ▼0915 鬱仏! ごうごうという音が耳を塞ぐ全ての音だった。 低く速く流れていく厚い雲が視界の全てだった。 灰色だった。全てが灰色だった。 世界は灰色だった。 「やっと辿り着いた」 自分がどんな声で、どんな姿で、どんな顔をしているのかさえわからなかった。 どうでもよかった。 そう、もう何もかもどうでもよかった。 「これでずっと一緒だ」 握った手の感触だけが確かな世界。 これが俺の望んだ世界。 何もなくていい、二人がいれば何も。 「もう傷付くこともない」 彼は愛おしそうに隣の存在に話しかける。 そこに誰もいないとは知らずに、ただ幸せそうに。 ごうごうと風が唸る。 雲が速く流れていく。 世界は灰色だった。 (漂流) ← | → |