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0622 陰陽師(博×晴)

眼に眩い空の青に、庭の見事な桜色が栄える春の午後。いつもの濡れ縁に座し、杯を傾けながら切れ長の目を庭に向けた晴明は故人を真似るようにして、ほうと息をついた。


「なんとも穏やかであるな」


呟いた言葉は、内心に響くようだった。しかし似ていない。苦笑を隠すように手にした杯を一息に空にする。
あの時以来、こうして美しい風景に心を揺さぶられても無意識に溜め息が増えるようになってしまった。


「お前を思い出すのだよ」


見事な満月の夜も、しとしとと降る雨の日も、桜も新緑も紅葉も。幾度となく、ここで酒を飲み交わしながら色とりどりのそれらに心を奪われ、語らい合った。向かいにいるお前は時に難しい顔をして考え込み、時に穏やかな顔をして笑っていた。
不意に、ふわりと近くで生まれたらしい風に頬を撫でられた。


「見ているか、博雅」


花を揺らした風にお前の笛の音を、お前の声を、聴いた。目の前に広がる世界のひとつひとつに、お前を感じ、見つけてしまう。
お前が今居る場所には旨い酒はあるか?
そこに桜は咲いているか?
いつか辿り着くのがどんな場所でも、そこにお前が居るのなら、俺はその時が楽しみに思えてならない。


(時の行方)




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