深夜徘徊は危険だった。  [ 5/6 ]



ふぅ、とついた息がやけに大きく聞こえた。星も煌めく夜半、夕食を作るのも面倒で外食にしたのがいけなかったんだろう。帰る気になれずにゆったりと遠回りをした結果、すごいものを見つけてしまった。
というか、出会ってしまった。

「! 新手か…」

「えーと、なんかよくわかんないけどとりあえず新手とは違いますよ。通りすがりの一般人なんです、通ってた道が大破して落っこちちゃったけど」

そう、落っこちた。ついでにイシュヴァール人には会うしめっちゃ血の匂いはするし、たぶんコイツがスカーなんだろう。別に捕まえるつもりはないが。

「一般人ならば、逃げろ。死ぬぞ」

「…それは、あなたに殺されるという意味で?それとも?」

「己は一般人は殺さん」

「成る程」

さっきから瓦礫の中に変な気配がいるとは思っていたんだ。だってこの気配はどう考えても、

「うー…」

「っ、まだ生きているか!」

「…どーゆう状況。スカーがホムンクルスに狙われる理由って…」

予想通り。
瓦礫から出て来たのはグラトニーで、どうやらスカーを食べようとしているらしい。何がどうなってこんな状況なのかはまったく見当もつかないけれど、出会ったからにはスカーを放置して逃げる訳にもいかないし…。面倒。

「ねぇあなた、軍に追われてるスカーって奴でしょ?」

「………」

「まー別に軍に突き出したりはしないけど、こんなとこで死体出られても処理に困るし第一目の前で人が殺されるのなんて見るの嫌なんだよね」

「……何が言いたい」

「簡潔に言えば、死んだフリして下水を流れて行けって事だ、よっ!……………突然何すんのグラトニー!!!」

突然体当たりをかまそうとしてきたグラトニーを間一髪で避け、思わず怒鳴ったあとにしまったと口を塞いだがもう遅い。先程まで隣にいたスカーは即座に私とグラトニーから距離をあけてこちらを剣呑な瞳で睨んでいた。グラトニーはたぶん突然出て来た私に訳がわからなくなっているんだろう、口に指を突っ込んで私とスカーを交互に見ている。

「………レノ?なんで、おで、たべたい」

「あーはいはいそうだね食べたいねっ。でもアレはダメ。私もダメ」

「…貴様、やはり仲間か」

「それは全力で否定なんだけどこんな状況じゃ説得力皆無かな」

ため息をぽつり。今日はついていない。てゆーか無駄に深夜徘徊なんてしなきゃよかった。

「グラトニーはそこで待て。スカーは私がどうにかするから」

グラトニーは殺せと言われたんだろうけど目の前で殺しはやっぱ無理だ。お腹空いてるんだろうけどそこは我慢してもらわなきゃね。
ゆっくりとスカーとの距離を縮め、あと少しと言うところでスカーの背後の壁に亀裂が入った。それはまるで切られたかのように綺麗な筋。

「っスカー!そっからどいて!」

「っ!?」

「……あら?誰かいるとは思ったけど、レノだったの」

「…はろーラスト」

最悪だ。ラストまで動くなんて。そこまでスカーが危険視されていると言う理由は…あぁそっか、貴重な人柱候補を殺されるんじゃ、止めなきゃいけないよね。…それでも。
若干こちらによろよろと倒れ込んだスカーに一瞬で近付き、合わせた手を彼の身体に触れさせる。一時的に脳からの伝達を遮断させる電波を流し込んでそのまま背負い投げで下水に投げ飛ばす。ついでに空気中から水を大量に作り出すとそれを下水に流したのでスカーの姿は既に見えなくなっていた。ほっと胸を撫でる。
スカーの身体が動かないのはわずか数秒の事のはず。水は結構多めだったけど溺死する程ではないだろう。全部仮定形ではあるけど、きっと彼は無事だ。
一瞬の事で反応すら出来なかったのか、ラストとグラトニーはぽかんとした顔をしているがこれはラッキー。このスキに逃げさせて、

「…どうして邪魔するの、レノ」

もらえなかった。
目の前に立ちはだかったラストを見上げる。彼女は苛立たしそうに私を見ていた。

「目の前で人が死ぬのは見たくないから。それに怪我なんてされたら私達医療に携わる人間が忙しくなるじゃない」

「アイツは人柱候補を殺すのよ、放っておいたら、」

「ラスト?」

「っ…」

「あんた達の計画なんか知らないし手出しもしない。けど1つだけ言っておくね。…私が嫌だから、嫌だと感じる事は全部潰す。それはあなた達も例外ではなく。今後はよく考えて、私の見えないところで行動する事ね」

にこり。笑いかければ何故かラストは固まっていた。その隣でグラトニーがカタカタと震えている。けれど慰めの言葉なんて一切出て来ない。

「じゃー、またいつか会う事もあるでしょう」

別れの言葉を告げて瓦礫から階段を錬成。それを上りながらなんとなく思った事が1つ。下水に流しちゃったけどさ、汚いよね。

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