医務室の錬金術師
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「あらあらまぁまぁ」
目の前のボロボロな姿を見て、レノは思わずそんな声をあげていた。
「なに、またマスタングが部下に無茶やらせたの?こーんな少年に怪我させるもんじゃないよ」
「私のせいではないし、そのいかにも私が非道な人間の様な物言いはやめなさい」
「マスタングうざい」
「うざ……いいから早く治療しろ!」
「神聖な医務室で声を荒げないでよね」
今まで椅子に座っていたレノだが、ロイの言葉にため息をつきながらも立ち上がった。ベッドに座らせているボロボロのエドワードに近付き、両手を合わせた。
「えっ」
「大丈夫大丈夫、痛くないから動かないでね」
「んなっ」
見慣れた錬成反応に思わずのけぞるエドワードだったがそれよりも先にレノの手が身体に触れる。反射的に瞳を瞑ったエドワードにロイが面白いものを見たとでも言うように笑っていた。
「錬金術師が錬成反応を怖がるとはな」
「いやいやいや!た、大佐バカじゃねぇの!?この無能!錬成反応が出てる手を向けられたら誰だってビビるっての!」
「無能とは誰の事を言っているのかね?ん?わざわざここまで運んでやった私に礼の一つもないとはな」
「そ、れは……………アリガトーゴザイマシタ」
「どうせ謝るのなら真面目に謝ればいいものを」
「うるせ!大佐にはこれで十分だっつの!」
「そーだそーだ偉そうに。マスタングだから気にしないでいいよ。で、他に怪我とかしてるの?目立ってたのは治したけど」
今の今までロイと口論をしていて気付かなかったらしいが、エドワードはそう言えばと自身を見つめた。スカーとの戦闘で負った打撲やアルフォンスに殴られた痕は勿論、小さな擦り傷や切り傷に至るまで全てが治っている。
「…医療系の錬金術?」
「そりゃ、医務室にいるからねぇ。一応治療なんかはお手の物。それで、他は大丈夫?」
「あ、大丈夫…だと思う。ありがとな!えっと…」
「レノ。あ、ついでに私、生身の傷は治せるけど機械鎧は流石に無理だから」
「ハハッ、逆に直せたら吃驚だよ」
「心も無理だから」
「は………?」
クスクス笑いながらレノは元々座っていた椅子に戻った。視線は既にロイに向いており、真剣そのもの。
「で、今更だけどこんな怪我負わせたの、誰?」
「…君も噂くらい聞いた事はあると思うが。スカー、という国家資格を持つ術師ばかり襲う男だ」
「あぁ、なんか今噂がすごいアレ。てゆーかじゃあこの子も国家錬金術師?すご」
「…君に話すと気が抜ける」
ため息をつくロイに笑みながらレノは視線を窓の外に向けた。
雨は未だ降り続いている。
「この子の治療も終わった事ですし、暗い話は執務室でお願いね」
視線を戻す事なく手をひらひらと振ってみせたレノに再びため息を吐くとロイはエドワードに声をかけて医務室を出た。
「…国家錬金術師、か」
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