「てかさ、キャプテンが誉めてたぜ」

「え?」

調理実習の最中、クッキーとマフィンをオーブンに入れて少しした時に中村が突然そう言った。
他の班員の子たちがテーブルを片付けているなか、あたしと中村は洗い物組はだらだらとやっている。

「この1年、ずっと練習を見てた訳でもなきゃ試合に連れてった訳でもねーのにオレ等のことよく分析してた。ってさ」

「……それは、まぁ、努力したし」

中村を介してではあるけど、主将がそんなことを言ってくれたなんて。やばい、めっちゃ嬉しい。

「おろ?どしたー、顔赤いぞ」

「うっさい」

「さては照れてんだな!遊木ちゃんかっわいー!」

ニヤニヤとこっちを見てくる中村はとりあえず泡だらけの手で殴っておいた。

「ほらほらー、痴話喧嘩はやめてよね!!」

「いや、痴話喧嘩じゃないからね」

「そろそろ焼けるころだよー」

「え、シカト?」

今日はシカトの多い日だ。中村しかり、今しかり。ふっ、と憂いを背中に負ったところでチーンと軽やかな音が鳴り響く。どうやら焼きあがったらしい。

「わー!いい感じだよ!」

「はい、これ遊木ちゃんの分で、こっちが中村くんの分だから復活したら渡しておいてね」

まだ熱いから気を付けてねー、と注意を残して彼女は他の子達にも配りに行った。

「…………多くね?」

「あ、復活した」

「あの程度じゃオレはやられん!!」

「人にあげなきゃ、自分だけでは食べきれないよね」

「スルー!?」

うるさい、朝の復讐だ。
洗い物が片付いた頃にはいい具合に冷めていたマフィンとクッキーをあたしも中村も最初こそ話ながらラッピングしていたものの、次第に会話が少なくなって、最後には入れる袋もなくなってしまったので黙々とラップに包んでいた。

「………作ってる途中に気付かなかったのが不思議だ」

「洗い物の量が半端じゃなかったのはこのせいだったんだね…」

「配りまくるしかねーな」

中村の言葉に静かに頷いた。とりあえず川田にいっぱいあげよう。
マフィン2個入りが10袋、ラップで8個。クッキー10枚入りが12袋。
現実を目の前にした時に授業終了を告げるチャイムが鳴って、調理実習室を後にした。

「……調理実習の時間内で終わったのは奇跡だよね」

「オレのおかげだな!」

隣でなんか言ってる中村に冷たい視線を送ると素直に謝ってきた。なんだこいつ。

「あ、川田だ」

もちろんこれを押し付けようとそっちに歩き、だ、せない?………なんで?



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