小鳥のさえずる気持ちの良い朝である。休日だったので普通なら制服に着替えているであろう時間帯にまだ布団の中にいたあたしは、着信の音で嫌々目覚めた。
「………だれ?」
これで相手がリコやてっぺーであれば容赦なく切ってやると思いながらも電話に出ると、相手は予想だにしていない相手だった。
『おはようございます、遊木先輩。まだ寝ていたのですか?』
「…みーくん?」
問われた内容に対しては何も返さずそれだけ口にすると、彼は肯定の返事をしてからただ簡潔に「お願いがある」という事を告げて来た。
『今日1日、秀徳の練習を見に来て欲しいのですよ』
「なんで?」
『………詳しい事は、あまり言えないのですが、』
「まぁ、別にいいけど。でも今起きたからもう少し時間かかるよー。秀徳まで距離あるし」
『来てもらえるなら、時間は構いません。今日1日だけ、お願いしたいのです』
「了解。じゃ、また後でね」
『ありがとうございます。では』
プツリと切れてしまった電話をしばし見つめて首を傾げる。随分焦っていたようだけど、一体何があったと言うのだろうか。まぁ、あたしがここで首を傾げても何もわかる事はないので、とりあえず秀徳に行こうと思う。疑問はみーくん本人に聞けば解決することだ。
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秀徳高校の目の前まで来て、入るのをためらう。部活生なんだろうけど、生徒が多いのだ。休日という事で、思わず私服で来てしまったあたしが入りにくいと言うのは言わずともわかるだろう。ここにいるだけでも視線を感じるし。練習中に呼び出したくはなかったけれど、仕方がない。「校門前にいるから迎えに来てください」といった内容のメールをみーくんに送った。
待つこと数分。バタバタと走る音が聞こえて顔を上げると、そこにはみーくん……ではなく、高尾くんが立っていた。
「ちわッス、遊木さん!」
「…あぁ、うん、おはよう。ところで、みーくんは?」
「えーっと、まぁ、色々あって?とにかく、体育館まで案内するんで」
くるりと体を反転させた高尾くんは、たぶん着いて来いと言いたいんだろう。有り難く着いて行かせてもらうとする。でも、なんで高尾くんなんだ。
「て言うか、ほんとに見学とかしちゃっていいの?」
「大丈夫ッスよ!真ちゃんのワガママって事で通ってるみたいだし、むしろあんなムサいところに来てくれてオレとしては嬉しい限りみたいな!!」
「へぇ」
「あ、体育館ここッス」
高尾くんが立ち止まった事により、私も立ち止まる。目の前の体育館からはバッシュのスキール音やドリブルの音、かけ声が聞こえている。少しだけ、緊張した。王者秀徳の練習を見れるなんてそう体験出来る事じゃないから仕方ない。
「秀徳バスケ部へようこそ〜」
風通しを良くする為であろう、既に開いている扉の中に手を向けて、高尾くんはにこやかに言い放った。
「お邪魔しま……え?」
「あっちゃー、まだ起きてなかったか」
「起きて、て……みーくんなんで倒れてるの?」
ステージ上で横になっているみーくんに慌てて近寄るが、顔色が悪い訳でも、呼吸が乱れている訳でもない。……なんで倒れてるの?
「お前が緑間の言っていた見学者か」
「あ、なんか勝手にすいません…」
「気にするな。緑間の我儘は1日3回。むしろ休日を潰して悪かったな」
「そんな事ないです!あたしも、秀徳の練習が見れると聞いて正直嬉しかったですから」
思わずぽろりと漏れた本音に口元を慌てて隠した。今更言葉が戻る訳ではなく、そろりと目の前の人物を仰ぎ見る。
「………そうか」
「ぶふっ、主将照れてるんスか〜?」
「あーあ、どうやったらこう言うヤツの後輩があんなのになるんだか」
「言うな、宮地」
みーくんがいつもどんな態度で部活に参加しているのかがわかったような気がした。…まだ、中学生気分と言うか、強さがすべてと言うか、そんな風なんだろう。思わずため息をつきそうになった口を慌てて押さえる。
「……あの、いつもみーくんがお世話になってるみたいですいません。言動とかは、たぶん、本人に悪気はないんですけど、」
「遊木さんが気にする事じゃないッスよ」
「お前が言う事でもないよなー高尾ー?」
「ちょ、宮地センパイ痛いッスまじで!」
「やめんか高尾、宮地」
王者秀徳と言われるくらいだし、もっとお堅い人達かと想像していたけれど、全然そんな事ない。こんな面子の中であれば、みーくんもいつか、自分の楽しめるバスケットを見つけられるんじゃないだろうか。きーちゃんがまた仲間を見つけられたように、みーくんも。
「これからもみーくんの事、よろしくお願いします」
「……母親みたいだな」
「あんな子供だったら迷わず捨てるぜ」
「まーたまたそんな事言っちゃってー」
「高尾、いい加減にしないといつか刺されるぞ」
「こわっ!!」
「騒がしいのだよ、まったく………遊木さん!?」
「おはよう、みーくん」
「いつここに…?」
「真ちゃんが主将のダンク頭に食らっておねんねしてる間にだよ」
「ダンクを頭にって………」
いや、聞くまでもなく事実であるんだろうけどあんまり想像出来ない。と言うより、頭をゴールと間違えるってどんだけだ。
「…まぁ、それはいいとして」
「いいのかよ」
「いいの。それより、みーくんはあたしに何の用事だったの?」
「……………それは、」
「コイツ、今日のラッキーアイテムが“尊敬出来る女性”だったらしくて!遊木さんしか思い付かなかったらしーんスよ!!」
「高尾、お前…!!」
ラッキーアイテムって……人がアイテムってどういう事なんだ、とかつっこむよりも先に今までみーくんがラッキーアイテム無しでいた事が信じられない。帝光中時代にも一度だけあった、みーくんのラッキーアイテム不携帯事件。死ぬんじゃないかと言う目にあっていたみーくんを思い出して、背筋が寒くなった。
「家は大丈夫だったの?」
「母がいたので、なんとか」
「……あたし、今日家まで送るよ」
「いえ、そうなると遊木さんの帰りが遅くなるので、」
「だったら遊木さんはオレが送ってくから、真ちゃんは大人しく送られとけよ」
「しかし………」
渋るみーくんをなんとか説き伏せて、その日は結局あたしと高尾くんでみーくんを家まで送り、あたしは高尾くんに駅まで送ってもらって、てっぺーに迎えを頼んで家まで帰った。
秀徳、いいところだと思う。練習内容はさすが王者って感じだし、何よりも良い人ばかり。みーくんが楽しくバスケットを出来る日が来るのも近いかもしれないなーと思う、今日この頃。
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なにこの終わり方www
書きたい放題すみません(´・ω・`)
伊織 2012.03.06
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