突然リコが言った。

「明日、海常に行って来て!」

「………え、なんで?」

「なんか黒子君が黄瀬君に渡す物があるって言ってね、しかも至急渡さなくちゃいけないらしいのよ。でもほら、ウチ明日練習試合組んでるじゃない?」

「……それで、なんであたしが行く事になるの?」

「黄瀬君と面識があるのって遊木くらいしか思い付かなかったのよ。ね、お願い!いいでしょ?」

「…別に、悪くはないけど」

悪くはないけど、そこまでして黒ちゃんがきーちゃんに渡さなくちゃならない物って何なんだ。すごい気になる。まぁ幸い何も予定がないし、断る理由もないので了承する事にした。

「よかった!じゃあ、コレよろしくねっ!」

「あ、うん…」

渡されたのはA4くらいの紙袋。あんまり厚さはない。益々何が入っているのか予測がつかなくて首を傾げた。まぁいっか、あたしの任務はコレをきーちゃんに渡す事だけ。
そんな訳で今、海常の校門に立っていたりする。

「よく考えたら初めて来るんだよね…」

ぼやいてみるも、休日だからだろう人気はない。人に聞きたくても聞く人がいなかったら聞く、聞かない以前の問題だ。なんで体育館の場所くらい聞かなかったんだろう。リコの勢いに押されてしまった昨日の自分を悔やみながらも、海常高校の敷地に一歩踏み入れたのだった。





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「(リ)バンッッ!!!」

歩き回って30分。どこかに行き着くだろうと歩いた先になんと職員室を発見して体育館まで案内してもらう事が出来た。運が良かったとしか言い様がない。しかしながら正反対の方向に歩いてきたので、あたしの勘は完全に外れていたのだろう。体育館が見えてきたので連れて来てくれた先生にお礼を言って頭を下げ、入り口をそっと開けてみると大きな声耳を貫いた。

「こ、こんにちはー…」

一応中をそっと覗いて、再び腕に力を入れて体育館の扉を完全に開く。そろりと開いたつもりだったけど結構な音がして、中にいた人達の視線が突き刺さる。ミニゲーム中のコート内が動き続けているところはさすが強豪校と言える。しかしながらきーちゃんは現在そのミニゲームの真っ最中らしい。そしたらあたしはどうすればいいわけ?

「あー、何か用ですか?」

「あ、はい!そうなんです、これをきーちゃんに…」

「………きーちゃん?」

「えーっと、黄瀬涼太くん、に」

内心で神様!なんて崇めながら話しかけてくれた彼に返すと、彼は一瞬にして眉間に皺を寄せた。どうやら地雷だったらしい。きーちゃんあなた、何したの?

「もしかして黄瀬に差し入れか?」

「いや、差し入れって言うか」

「誠凛の奴だよな?……黄瀬の奴、どんだけファン居るんだよ…」

「いやファンじゃないし」

完全に勘違いしてしまっている彼の発言に思わず即答で否定の意を示していた。確かにきーちゃんはファン多いだろうけど私をファンなんかに勘違いしてもらっては困る。て言うか、これが差し入れなんかじゃないのは本当の事だし。

「証明出来んのかよ?」

「本人に聞いたらわかります。中学時代の先輩で、沢井遊木って言います」

「………おーい、黄瀬ー!!」

タイミング良くミニゲームも終わったので彼がまだ息の荒いきーちゃんを呼ぶ。機嫌悪そうにこっちを見たきーちゃんだったが、あたしがいるとわかったのか表情を変えてダッシュで寄ってきた。

「遊木センパイ!え、なんでいるんスか!?」

「こんな感じです」

「………疑って悪かったな」

「気にしないでください。きーちゃんのお世話が大変なのはわかってますから」

中学時代を思い出して苦笑いを零せば、彼は少しだけ目を丸くした。

「あの、名前何て言うんですか?」

「…新田春樹、3年だ」

「改めまして、誠凛高校2年の沢井遊木です。これからもきーちゃんのお世話頑張ってくださいね、新田さん」

「おー」

初めて笑顔を見せてくれた彼、新田さんは次のミニゲームに出るのか手を振って去って行った。小さく頭を返してふぅ、とため息をひとつ。

「なんでそんなに睨んでるの、きーちゃん」

「遊木センパイが危機感ないからッスよ!」

「危機感?…十分に持ってたつもりだけど」

別に新田さんに対してそんなにきつい危機感を持つ必要はないと思うし、と首を傾げてみる。そんなあたしに尚も言い募ろうとしたのか、きーちゃんが口を開いた瞬間に、きーちゃんの上に大きな影が被さった。

「きーせっ。1人で良い思いしてんじゃねーよ。あ、俺は海常3年の森山です。君、可愛いね」

「はい?」

「その艶やかな黒髪、バランスの取れた顔のパーツ、そして俺を魅了するその声。そんな君に魅了された俺は君との運命を感じているんだけど、部活が終わったら一緒にお茶にでも」

「もーりーやーまーセンパイ!!何口説いてるんスか!?」

「馬鹿、可愛い女の子を見かけたら声をかけるのが基本だろ」

「ダメッスよ!遊木センパイだけはぜーったいダメッス!!」

私の目の前で両手を広げ、まるで庇っているような格好のきーちゃんに訳がわからないのでとりあえず持っていた物を渡した。

「きーちゃん、コレ黒ちゃんからお届け物だから」

「お届け物…?ちょ、遊木センパイちょっと外出ましょ!笠松センパーイ!ちょっと遊木センパイを校門まで送って来るッス!!」

「いちいちうっせぇ!次のゲーム送れんなよ!!」

「ハイっス!!」

笠松さんから言葉が返って来た直後にきーちゃんはあたしの手を取って体育館の外に出た。扉を閉めてようやく騒がしかった声がシャットアウトされた。

「森山センパイは相変わらずッスね…」

「よくわからないけど、きーちゃんも苦労してるんだね」

「まったくッス!遊木センパイももー少しガード固くしてほしいッスよ」

あれはガードが固かろうが柔かろうが関係のない気がするけど、それを言ってもきーちゃんは聞いてくれなさそうなので何も言わずに頷いておいた。きーちゃんは笠松さんに言った通り校門まで送ってくれるらしく、外靴に履き替えてあたしの隣に並ぶ。

「そう言えば、それの中身何なの?」

「へ?あ…これッスか?」

「それッス」

「………中学時代の、集合写真ッス」

「……………え、」

まさかそんな物が入っているとは予想もしていなかったので驚きのあまり歩みが止まる。同じように止まったきーちゃんを見上げると、切なそうな表情……が一転、してやったり顔になったのを見て理解する。コイツ嘘つきやがった。

「もうきーちゃんの事なんて知らない」

「ちょっとした冗談じゃないスか!許して!」

「知らない」

校門の場所はもうわかっているから、きーちゃんを置いて早歩きで進む。焦って駆け足でついてくるきーちゃんを横目に校門を出た。きーちゃんはどこまでもついてくる。

「戻らないとゲーム出れないよ」

「だって遊木センパイ怒ってるし…」

「怒ってない。でももうそんな冗談言っちゃダメだからね?」

「…ハイっス」

「いい子いい子」

よしよしと頭を撫でれば、きーちゃんは顔を赤くしながらもそれを甘受していた。少しの間頭を撫でてあげてから手を離す。きーちゃんは若干寂しそうな顔をしたけどすぐにあたしから一歩離れた。

「じゃ、オレ戻るッスね」

「部活頑張れー」

「ハイっス!!」

駆けていったきーちゃんの背中にひらひらと手を振って、あたしも海常に背中を向けた。あー疲れた。…そう言えば結局お届け物の中身って何だったんだろう?



(言えるはずないじゃないスか!)(実は本当に中学時代の集合写真と……)(遊木センパイの写真が入ってるとか!!!)

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