「…久しぶりだね、青ちゃん」

「いや、久しぶりっつーか…」

「こんなところでどうしたの?」

「そうだよ!今日練習でしょ!?」

出来るだけ平静を装って話しかければ良い具合に桃ちゃんが乗っかってくれたので内心で安堵の息を吐いた。あのまま2人で会話を続けるなんて無理だ、気まず過ぎる。

「あー…火神ってのと会ってきた」

「!」

思いがけない理由に肩が揺れる。青ちゃんがわざわざ会いに行くんだ、やる事は1つ。少なくとも中学の頃から格段にレベルアップしているはずの青ちゃんと今の火神がやり合ったとして、勝てる確率はほぼ無に等しい。怪我を抜きにしても、火神は青ちゃんに勝てないだろう。

「行くなって散々言ったじゃん!それにたぶん、彼の足はまだ…」

「っせーなー、わってるよ。つか悲しいのはオレの方だぜ?」

「全然、歯ごたえなかった?」

ダルそうな青ちゃんの表情でそんな事はわかっている。けれど聞かずにはいられなかった。青ちゃんが火神にどれだけの興味を示しているのかを。青ちゃんは相変わらず気まずそうな視線をちらりとあたしに向けて、小さく息を吐いた。

「歯ごたえどころじゃねーな。これから少しは楽しめるかと思ったのに、ガッツ萎えたぜ」

「………そっか」

予想通りといえば予想通りの返答に軽く目を伏せる。少しの沈黙がよぎり、

「…遊木サン、どこ通ってんだよ?」

「え?」

「……3年の3学期から、まったく顔見ねぇし」

「…あ、えっと、誠凛。青ちゃんが今ボッコボコにした火神と同じところ」

「……………マジかよ」

足元に視線を落としてさらに気まずそうに頭をかく青ちゃんに首を傾げた。桃ちゃんに視線を向けてみたけれど彼女もよくわからないらしく困惑した視線を返事としてきた。

「……もしかして、気遣ったりしてる?」

「……………」

そのまま視線を逸らした青ちゃんの態度から、推測があながち間違ってはいない事を知る。
思わず、笑みがこぼれた。

「バッカじゃないの?」

「あぁ!?」

「そんな気遣いいらない。てゆーかあたしバスケ部じゃないし何より……手抜きの相手に勝っても全く嬉しくないでしょ。アイツ等も」

「………さつき、ダリィからこのまま練習フケるわ」

「はぁ!?今の遊木センパイの言った事聞いてた!?」

「聞いてたに決まってんだろ。…勝てねぇ相手に挑むから練習すんだ、勝てる奴等の為になんで練習しなきゃならねーんだよ」

「あっ、もう!青峰君!?」

それ以上話す事はないとでも言いたいのか、青ちゃんは片手をひらひらと振りながら方向転換。

「青ちゃん!」

「…んだよ?」

「………いつになったら敬語使ってくれる?」

考えなしに声をかけて出た言葉がコレだ。頭を抱えそうになったがこれ以上の言葉が出て来ないのも事実。そのまま睨むように青ちゃんの背中を見ていれば、一瞬振り向いた彼は実に嫌な笑みを浮かべていた。

「オレが火神に負けたら使ってやるよ」

それだけ言って、今度こそ青ちゃんは歩き去った。隣で桃ちゃんがわなわなと震えているのがわかる。

「あぁもうアイツは!遊木センパイ、気にしないでくださいねっ!」

「…うん、大丈夫だよ」

色々、大丈夫。ひねくれた青ちゃんはひねくれたままだけど、少なくともあたしに対してあまり変わっていない事が判明した。避け続けていたのが申し訳ないくらい。でもやっぱり、バスケが関わって来ちゃうから、あたしは青ちゃんが無邪気にバスケをしていた頃に戻ってくれるまでは避け続けるだろう。…これは何が何でも、火神に勝ってもらわなくちゃいけないみたいね。敬語も覚えさせなきゃいけないし。

「桃ちゃん、ご飯食べ行こっか」

「はい!」

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