「え、今日部活休みなの?」

突如クラスに現れたリコの発言に目を丸くした。あの練習大好きな鬼カントクが休みを入れるなんて。

「体育館が明日の芸術鑑賞会の準備で使えないらしいのよ。それと最近ロクに休みも入れてなかったしね」

「…そっか。リコもちゃんと部員の事考えて、」

「夏休みに入ったら合宿だし、そっちで好きなだけしごけるしね〜!」

「…………ご愁傷様」

マネージャーで良かった。本気でそう感じた。合宿前に少しだけ気持ちを楽にさせた上で突き落とす…リコは生粋のSね。
にしても、休みかぁ。

「じゃあ、そうゆう事だから!また明日ね!」

「あ、うん。ばいばい」

急に言われてもなー。どうしようか。鉄平を誘って珍しくご飯でも食べに行こうか。とりあえず連絡を取ろうと思って携帯を開くと、メールが3件入っていた。しかも全件鉄平から。

お昼休みに一件、

“今日部活休みらしいな”

5限が終わって一件、

“スポーツショップ行きたいから、放課後付き合って欲しいんだけど”

そして3分前に一件、
“今から行く”

「………」

行くってどこに?首を傾げると同時に教室の扉が開いて鉄平がいつもの食えない笑みのまま入って来た。

「遊木、」

「ごめん、今気付いた」

「で、返事は?」

「…付き合ってあげてもいいよ」

我ながら可愛くない言い方だなとは思うけど、どうにも鉄平には優しくなれない。優しくしたいのは山々なのに、口にするのはツンケンした言葉。そんな自分に呆れてため息をつきたかったが、それよりも早く鉄平が私の手を握っていた。

「決まりだな」

「………どこ行くの?」

「とりあえずすぐ近くの…あー、ヒラヤマスポーツだっけ?あれ行って色々見たいんだけど、いいか?」

「うん」

鞄を持って隣に並ぶと同時に鉄平が手の握り方を変えてきた。俗に言う、恋人繋ぎ。ちょ、ここまだ学校だし!教室だし!そんな意味を込めて無駄に整っている横顔を睨むように見上げると、何を勘違いしたのか鉄平は嬉しそうにはにかんだ。わ、訳わかんない…。もういいや、諦めよう。がっくりうなだれると次は小声で囁いてきた。

「まだ学校だし、キスは後でな」

「―――は?」

「あれ、違うの?物欲しそうな顔だったからさ」

「ち、ちが、違うし!てっぺーバカじゃないの!?」

「はいはい照れんなよー」

「ちょ…っもう!!」

まったくついて行けない。繋いでいない方の手で何故か頭を撫でられたので私も繋いでいない方の手で鉄平の手をはたき落としてやった。それでも鉄平は嬉しそうだからもう本当に手のつけようがない。はたかれて嬉しいなんて、まさかMだったの?

「最近部活ばっかで相手してなかったから、寂しかっただろ?」

「………別に。子供じゃないから、我慢くらい出来るから」

「だから今日はどーんと甘えていいぞ!」

「話聞いてた!?」

ハッハッハ、なんて雄大に笑いながら鉄平はくしゃくしゃと再び私の頭を撫でてきた。今度ははたき落とす気にもならずにやりたいようにさせておいてやる。だって、図星だった。桐皇に負けて、みんなやる気になって、だから部活に熱が入る。家でも学校でも部活でも、鉄平が考えてるのはバスケの事ばっかり。鉄平がいつだってバスケ部員としているから、私だっていつでもマネージャーでいなきゃいけなくて、最近バスケ以外で話した事はほとんどない。
まぁ、確かに、寂しかった…けど。

「遊木」

「ん?」

ちゅ

「前見てないと転ぶぜー?」

「―――!なっ、ここ、学校!!」

「学校だから後で」って、さっき自分で言った癖に!いや別に学校出てからを期待してたとかそんな訳じゃないけど!けど、でも、今のは!!!

「寂しそうな顔してたから、つい」

「つい、じゃない!」

「俺がしたかったから」

「……………っ!!!」

きっと私の顔はりんごの様に真っ赤になっている事だろう。突然真剣な顔してそんな事言われたら、何も言い返せないじゃないか。

「…てっぺーのバーカ」

「可愛いなぁ、遊木は」

「うっさい黙っといて」

「……………」

「……………」

「………やっぱなんか喋って」

「ハハッ、なんだよ」

手を握ってても声が聞こえないと不安になるなんて私も末期だな。…まぁ、たまにはこんなバカらしいのもいいかもしれないなー、なんて思ったりしたある日の放課後。



アンケートより、「木吉と恋人的な絡み」でした!
恋人って難しい…。けど部活外ではこの2人無意識バカップルなのでこんな感じです。

2012.01.12 伊織




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