座敷に座れそうにもないので仕方なく黒ちゃんときーちゃんの間に無理矢理椅子を割り込ませて座った。正直狭いが仕方ない。

「…とりあえず何か頼みませんか?」

お腹が減ったと言う黒ちゃんは1人でメニューを見出した。けど、あたしもきーちゃんも、

「オレもうけっこう一杯だから、今食べてるもんじゃだけでいっスわ」

「同感」

「黄瀬、なんでお前はそんなゲ○のようなものが食えるのだよ」

「なんでそーゆーこと言うっスか!?」

しかもなんできーちゃんにだけ?みーくんはあたしを見る事をしないから、多分きーちゃんをからかうための冗談なんだろうとは思うけど。

「いか玉ブタ玉ミックス玉たこ玉ブタキムチ玉…」

「なんの呪文っスかそれ!?」

「頼みすぎなのだよ!!」

「大丈夫です火神君1人で食べますから」

「そいつほんとに人間なの?人間って種類でいいの?」

有り得ない。だいたいそんなお金どこにあるのよ。
謎は考え出したらキリがないからやめた。因みに、火神の前に出てきたもんじゃは普通のの6、7倍はあった。有り得ない。

「……………」

「緑間っち、ほら、コゲるっすよ?」

「食べるような気分なはずないだろう」

既にきーちゃんの目の前にもんじゃはほとんどない。黒ちゃんも火神も食べ始めた中で、ただ1人みーくんは腕を組んだまま動かなかった。このメンツだし、気持ちはわかんなくもないけど。

「みーくん、負けて悔しいのは分かるけど、倒れちゃうよ?」

「そっスよ、ホラ!昨日の敵はなんとやらっス」

「負かされたのはついさっきなのだよ!」

きーちゃんって気がきくのかきかないのか微妙なとこだよね。

「むしろオマエがヘラヘラ同席している方が理解に苦しむのだよ。一度負けた相手だろう」

「そりゃあ…」

真剣な言葉に、きーちゃんの表情が変わる。笑顔から、挑戦的な表情へ。
…ほんと、戻ってくれてよかった。

「当然リベンジするっスよ、インターハイの舞台でね。………次は負けねぇっスよ」

「………ハッ、望むとこだよ」

神妙な空気なのに、それがあたしにはどうしようもなく嬉しくて仕方がなかった。思わず緩んだ表情を目ざとく見つけたのかみーくんが怪訝そうな顔であたしを見た。

「どうしたのですか?」

「…別に、何でもないよ」

「そんな楽しそうにしてるのに?ヒドいっスよ、面白い事あるなら教えて欲しいっス!」

「お酒でも飲んだの?」

あまりのテンションに頼んでみるが、どうやら違うらしい。しかもあたしを見つめる不思議そうな瞳が多くなったのを感じて、居心地悪く髪の毛をいじった。改まってそんな事言うとか恥ずかしすぎる。でもどうやら彼等はそれを許してくれそうになかった。
ふぅ。

「みんな、昔に戻ってるみたいで嬉しいなって」

「………」

「………確かに、最近海常のみんなとバスケするのがちょっと楽しいっス」

「…けど、あの頃はまだみんなそうだったじゃないですか」

「遊木さん、オレは楽しい楽しくないでバスケをしてはいません」

違うんだってば、だからね、みーくん。

「お前らマジゴチャゴチャ考えすぎなんじゃねーの?楽しいからやってるに決まってんだろ、バスケ」

「なんだと…」

台詞取られて正直悔しいけど、今回は誠凛が勝ったのもあるし許してやろう。みーくんが口を開く前にあたしもぽつりと呟く。

「きーちゃんもみーくんも、黒ちゃんと試合して変わったよ」

楽しくなかったら、あんなに上手くならないよ。
緩んだ表情のままみーくんに言えば、彼は押し黙った。

「僕もそう思いますよ」

「…そうやって、みんな自分の楽しいバスケをするのがいいよ。……青ちゃんも、むっくんも、征十郎くんも、みんな」

「…よくわかんねぇけど」

さっきから黙って食べていた火神が再び言葉を発した。まさかもう食べ終わったの?鉄板を見ると思った通りそこにはもう何もなかった。すごいときもいを通り越して最早こわい。

「オレと黒子でキセキ全員ぶっ倒す!って事でいいんだろ?…ッスよ」

「………………あは、何それ」

確かにそうなんだけど。
言葉は笑いがこみ上げてきて口には出せなかった。何なの火神って。ほんとバカ過ぎるわよ。

「…遊木、さん?」

黒ちゃんがびっくりした顔で私を呼ぶけど、どうにも止まりそうにない。こんなに笑ったの、いつぶりだっけ?
ひとしきり笑って周りを見ると、何故か全員止まっていた。

「あたし、これで帰るね。いい笑いをありがとう、青ちゃんに勝つの楽しみにしてる」

最後にリコにバイバイと手を振って外に出ると、雨は止んでいた。黒ちゃんと火神が青ちゃんと試合をしたら、なんとなくあたしもちょっとだけ進めるような気がした。…多分勝てはしない、だろうけど。
あぁそうだ、今から、てっぺーにメールしよう。



“ごめんね、ありがとう。”



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