トイレから戻ると、予想だにしていなかった状況になっていた。危険度MAX。

「………え、みーくんログインで笠松さんログアウト?」

思わず真顔で呟くと、組んでいた腕を解いてみーくんがこっちを見た。

「先日ぶりです」

「あ、え、うん。こないだぶり」

「遊木さんも試合を観ていたのですか?」

「…うん」

頷けばみーくんは小さく息を吐いた。もしかしてこの間あたしを目の前に誠凛に勝つと言っていたのを思い出しているのだろうか。別にあたしはどちらが勝とうと特に気にしてはいないのだけど。

「あー!遊木さん!っすよね!?」

「え?」

突如空気を裂いた声に思わずそちらを見れば。あ、秀徳の10番。反射的にお疲れ様、といたわりの言葉が出た。

「てゆうか、なんで名前…?」

「あはは、やっぱ覚えてないかー」

「覚えて、て…」

とゆーことは逢った事がある、と?
いくら記憶を探っても思い出せない顔。これだけバスケが上手いなら知っててもおかしくはないのに。

「俺、高尾和成って言うんすよ!」

「…高尾………高尾……………?」

手当たり次第に記憶から人の顔を探すが、やっぱりわからない。首を傾げて彼を見れば苦笑を漏らしていた。わー、申し訳ない。

「ストリートコートで、中二の時に。スランプでシュート率も落ちてたし、チームの奴等とも上手くいってなくて部活サボってた時に、逢ったんすよ!」

「……………そこまで聞いても思い出せない。ごめん」

彼が中二と言う事はあたしは中三。あの頃はとにかくバスケから逃げていたし、だから自分からバスケに関わったなんて信じられない。覚えてない。

「ただがむしゃらにシュート撃つのをずっと見てて、で、帰る時に近付いて来たと思ったら一言『きみ、上手くなるよ。でもバスケは1人じゃ出来ないから。もう少し落ち着いてみたら?』って。俺あの言葉でスランプ抜け出せたから忘れられなくて!名前だけ聞いてたから探してたんすけど、まさか真ちゃんの先輩とは思ってなかったっす!」

「…あー、うん…?」

そんな記憶もあるようなないような…とにかく終始首を傾げていると座敷から降りてきた高尾くんに手を掴まれて座敷に上がらされた。笠松さんの隣であると言う事は変わりないけど。
黒ちゃん達も誠凛メンバーも、あたしでさえもポカンとしている中、高尾くんだけは嬉々としてあたしに話かけていた。
うーん、思い出せない。







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