ノックでもして空気をぶち壊してやろうかとも思ったけど、無理だった。だってドア開いてるんだもん。こんなんで偵察されてたらどうするつもりなんだか。…にしてもすっごいお通夜ムード。
あんまり知り合いが多い訳でもないからこーゆう事はしたくないんだけど。しょうがないなぁ。

「あーあー、もう、何このお通夜な感じ。まさかもう負けたとか思っちゃってる?」

思い切りため息を吐きながら中に入れば、予想通りの死にかけた顔がそれでも驚きながらこっちを見ていた。

「沢井…?」

「なんで遊木がいるの!?」

「観に来てちゃダメだった?」

「そうゆう意味じゃなくてっ」

慌てるリコに笑いかければ途端に何も言わなくなった。そんなにあたしの笑顔怖いの?

「てゆーか、だからもしかしてもう負けたつもりにでもなってるの?ねぇ、日向」

「っんなワケねぇだろ」

「ふーん。にしては、主将なのに前半の反省もチームの鼓舞もしないんだ」

「っ、遊木!」

今度は怒ったようなリコに思わず肩をすくめた。別に怒らせたい訳でもないんだけどね。珍しく黒ちゃんが止めて来ないなーなんて思ってそっちを見れば、真剣な瞳でビデオを観ていて。……こーんなにやる気な子だっているのに、ほんと2年は正邦に勝てればそれで満足だとでも勘違いしてるんじゃないの。

「…アンタ、さっきから聞いてりゃ何なんだ。関係ねぇんだから黙っとけよ」

「わーヤダヤダ、暴力はやめてねー」

目の前にするとやっぱデカい。ご立腹な様子の火神にわざとおどけて言えば、胸倉を掴まれ。………。ちょーし乗んなっつの。

「ちょ、火神!?」

「あのさぁ、仮にも選手だから手は出さないでおいてあげるけど。あんまちょーし乗ってると痛いメだけじゃ済まさないよ?」

「チョーシ乗ってんのはそっち、」

「何してるんですか火神くん」

「ごふっ!?」

「すいません、遊木さん」

黒ちゃんが火神のすねにパンチを入れてくれたおかげで手が離れた。火神に睨まれている黒ちゃんは困ったような表情をしている。なんか、こっちがごめん。

「いいよ、こっちもさすがに悪かったと思ってる。それよりあと5分くらいしかないんだし、ね?」

「…ありがとうございます」

「てか、黒子はさっきから何してんの?」

あたしの言葉でようやく黒ちゃんがビデオを見ていた事に気付いたのか伊月が問う。

「前半ビデオ撮っていてくれたそうなので、高尾くんを」

「 ! …なんか勝算あるのか?」

一気に明るい顔になった伊月に、黒ちゃんは首を傾げて返す。

「さぁ?」

「は?」

「『勝ちたい』とは考えてます。けど、『勝てるかどうか』とは考えた事ないです」

「…ふふ、」

「てゆーかもし100点差で負けたとしても、最後の1秒で隕石が相手ベンチを直撃するかもしれないじゃないですか。だから試合終了のブザーが鳴るまでは、とにかく自分の出来ることを全てやりたいです」

真摯な言葉に、一瞬その場に沈黙が訪れる、が。

「…いや!!落ちねぇよ!!!」

「え?」

「隕石は落ちない!!てかすごいなその発想!!」

「っはは!あははは!!黒ちゃんらしすぎる!こんな子だっているのに、あんた達がそんなんでいいと思ってんの?」

「…そうだよな。確かに全員腹痛とかは…」

「つられるな!それもない!!てゆうか沢井はそんな意味で言ってないと思うし、第一それ呪いでもかけるつもりかよ!?」

うわ、あの伊月ががっつりツッコミ役とかどんだけだ。けど黒ちゃんの発言でお通夜ムードは消え去った。

「まーねー。それに比べたら後半逆点するなんて…全然現実的じゃん!!」

「とにかく最後まで走って…。結果は出てから考えりゃいーか!!」

よかった、いつもの誠凛の空気ならそう簡単にみーくん攻略を諦める事はないでしょ。



.





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -