ガラガラ、と無遠慮に病室の扉を開ける。4人部屋だけど今は2人しかいないこの部屋は、さらに言うとこの時間帯同室のおばあちゃんは検診で病室にいない。要するにアイツは今1人寂しくぽつーん状態なのである。
「遊木?」
「よっす、久しぶり?かな?」
「3日くらいしか経ってないけどな」
「うんうざい」
お互いにこにこと笑顔のまま。言葉は(あたしが一方的に)酷いけどお互いわかってる。これがあたし達流の挨拶かもしれない。確証はない。
「知ってる?今日誠凛は全国大会予選の一試合目なんだって」
「あぁ…確か新協学園?とか言うところと当たるらしいな」
リコが言ってた、とソイツは持っていた携帯をぱかりと開いた。うん、気にくわない。
「人と話す時は、」
「携帯さわるな、だろ?」
どや顔してんじゃないわよ、さらに腹立たしい事この上ない。
「わかってんならやめなさいよね。逆パカするわよ」
ギッと睨めば悪い、と軽く謝られて携帯はすぐに机の上に放置される事となった。
「………」
「………」
「……なぁ、」
「…ね、……先にどーぞ」
同じタイミングで話し出すとかどこの少女漫画的展開だ。無限ループに陥る前に先手を打てば、頷かれ言葉が漏れる。
「そろそろ、戻れそうなんだ」
「…この間も聞いたし、それ」
淡々と返せば「そうだっけ?」なんて笑顔になるがそれも一瞬の事。すぐに真面目な表情に戻った。
「今年は絶対日本一をとる」
「………。ふーん」
「だから、遊木。頼みがあるんだ」
ソイツは辛そうに笑う。けど、あたしはどうすればいいんだろう。今からコイツの言う事なんてわかりきってる。けど、でもあたしは。
催促なんてしてないのに、沈黙が途切れるのはヤケに早かった。
「マネージャーしてくれ」
「――――っ」
沈黙。
絶句してしまったあたしは何かを言いたいのだけどそれを上手く言葉にする事が出来なくてただ口を開けたり閉じたり。そんな間抜けであろうあたしを見て、何故か突然ソイツの表情が変わった。苦しそうな、罪悪感の滲む顔。訳がわからずガン見していれば、不意に頭を撫でられさらに訳がわからなくなった時。ぽた、と握っていた拳に水滴が落ちてやっと気付いた。
あたしが泣いてるから、だ。
泣いてる事がわかった途端、何故だか物凄く哀しくなって顔を手で覆う。頭を撫でる温もりが離れる事はなかった。
「っ、てっぺ、のバカっ」
「…すまん」
なんで素直に謝るのよ。
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