「……。わかりません」

「へ?」

突然始まったあたしの知らない昔話に首を傾げていれば、黒ちゃんは苦い表情で頬をかきながらそう言った。

「帝光の方針に疑問を感じたのは確かに決勝戦が原因です。あの時ボクは何かが欠落していると思った」

「―――、」

あぁ、うんそっかー。どんな些細な事でもあたしに報告していた桃ちゃんがこんな大事な事をあたしにひ言わなかったのは、そういう事なんだね。
みんな、混乱してたんだ。

「スポーツなんて勝ってなんぼじゃないスか!それより大切なことなんてあるんスか!?」

現にきーちゃんがそうだ。まっすぐならまっすぐなだけ黒ちゃんの行動は色んな意味で堪えただろう。

「ボクもこの前までそう思ってました。だから何がいけないかはまだハッキリ分からないです。ただ…ボクはあのころバスケが嫌いだった」

きっと黒ちゃんは『キセキ』の中で一番、そして唯一あたしに似ている。痛い程伝わってくる言葉と想いには身に覚えがあるものばかりで。

「ボールの感触、バッシュのスキール音、ネットをくぐる音。ただ好きで始めたバスケなのに」

「………」

「だから火神君に会ってホントにすごいと思いました。心の底からバスケが好きで、ちょっと怖い時やクサった時もあったみたいだけど全部、人一倍バスケに対して真剣だからだと思います」

そんなに大きい声ではないのに、反響するように響く言葉。…きーちゃんも少しくらいわかるかな、この言葉の意味が。

「…やっぱ、分かんねぇっスわ。けど一つ、言えるのは…」

下を向いていた顔を上げて、きーちゃんはまっすぐに黒ちゃんを見つめる。

「黒子っちがアイツを買う理由がバスケへの姿勢だとしたら…黒子っちとアイツは、いつか、決別するっスよ」

暗い暗い、瞳。
あたしはこんな瞳をするきーちゃんが怖かったのかもしれない。そしてこれは自意識過剰かもしれないけど、きーちゃんがここまで黒ちゃんの“去り方”に執着するのは、あたしという前例があったからなのかも。



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